予備予選で使われたピアノについて。
結局、使われたメーカーはスタインウェイとヤマハの二種でした。
ヤマハも大いに健闘していたようですが、スタインウェイはよりあでやかで、次高音あたりがやけに華やかに鳴りわたるさまはノクターンなどで効果的だったと思いますが、ときに過剰というか、どこか泣き落としのようで、却って薄っぺらな印象を受ける場面もありました。
楽器が鳴ることは非常に大事なことではあるけれど、演奏者の技量によって深く鳴らされ、歌い上げるような印象を聴き手に与えることが本筋ではないかと思うと、陰翳を映し出す階層のようなものが少しほしいときがありました。
触れると即鳴ることも決して否定はしないけれど、奏者がそこを引き出す余地があって、それに応じる幅と厚みのある楽器であるほうが、本当の表現力というものではないかと思いましたが、今どきは細かすぎる注文なのかもしれません。
会話でも、あまり大げさな相槌を打たれたりすると、却ってバカにされているような気がするものですが、考えすぎでしょうか。
その点では、ヤマハのほうが一定の節度はあったのかもしれません。
決して今回のスタインウェイを否定しているわけではないし、新しいピアノとしてはひとつの究極なのではないか?とさえ思われたし、全体として感銘を受けたことも事実ですが、どうも諸手を上げて素晴らしいというのとも、どこかちょっと違っているような後味が不思議に残ります。
あれ?と思ったのはたしか4月の30日ごろの事。
スタインウェイは前日までとはあきらかにピアノの感じが異なり、かなりくぐもった音になったから、それは演奏者のせいかと思ったら、次の人でもそれが続いているから、おそらく整音され、かなり針刺されたのだろうと勝手に解釈しました。
しかも、それは長くは続かず、数人が弾くにつれ明らかに元に戻ってくるあたり、このようなコンクールに使われたらハンマーの消耗も大変なものだろうなぁと思いつつ、それから数日後にもまた同様のことがあったので、針刺しされた直後のタイミングに当たると、かなりフィルターがかかったような印象となるから、あのようなと競い合いの場では不利になるだろうという印象。
〜とはいえ、そこまで公平を期すというわけにもいかないから、これも時の運でしょうが、針刺しされる直前に弾けた人のほうが、くっきりとインパクトのある演奏になるだろうし、細かく見だしたら大小あれこれの条件が幾重にも絡みついてくるようです。
ほんらいピアノの音は、いうまでもなくハデであればいいということはまったくないのだけれど、コンクールといういわば戦場においては、常に他者との比較もあるし、僅かなことが生死に関わるわけだから、ただやわらかい落ち着いた音色などといってみても、それは差し当たりキレイゴトにすぎない気もします。
そんなピアノの状態や出場順など、あれこれ言ってみても始まらないし、そういうことを一気に突き破るような人こそが優勝に値するのだろうと思いますが。
ことほど左様に、コンクールは芸術とは似て非なるものであり、強いていうなら、芸術性も勝ち負けの一要素であることが組み込まれた、一種のスポーツだと思いました。
なんならナイキあたりが最も演奏しやすい機能ウェアなどを作ったらいいかも。