本年もよろしくお願い致します。
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昨日、大晦日の夜19時ごろ、すなわちあと5時間足らずで年が明けるというときに、せわしげに宅急便が届きました。
開けてみると、なんと7枚ものCDが入っており、そこにはお手紙も添えられていました。
ピアニストの草野政眞さんから届けられたもので、ご自身のアーカイブをお作りの由は伺っていましたが、これは試作段階のもののようで、正式なものは少し違ったものになるとのこと。
一面識もない、一介のアマチュアにすぎない私のような者に、こういう貴重なものをお送りくださるとは、なんとありがたいことかと思いつつ、さっそくVoi.1をプレーヤーに入れてライナーノートを手に開いたところ、我が目を疑いました。
そこには何年も前、草野政眞さんの演奏をYouTubeで聴いて感激したときに書いたブログの文章が冒頭より転載してあって、おまけに当時は自分の一人称を「マロニエ君」などと我ながら気持ちの悪い言い方をしながら、甚だ無責任なことを書き散らしたもの。
それがまさかピアニストご本人の目に触れるなどまったく想定外で、あわせてブログという次々に更新していく性質のものであることもあり、感じたままを勝手放題に書きつけたものでした。
ともかく、「顔から火が出る」とはこのことで、顔の皮膚の表面がいきなり強火に炙られるようで、同時に胸の奥がズーンと落ちてゆき、恥ずかしさと申し訳なさで、鳴り出した演奏も耳に入らない驚きとなりました。
すぐにご本人にメールをすると、そういわずに…というような内容の返事が返ってきましたが、もうできあがっているものだからどうしようもありません。
調べると2017年だったようで、草野政眞さんの存在を知った時、ご自身のHPからCDを購入したことから、奥様とメールを交わすようにはなっていました。
いつだったか私のブログのことに触れられたことがあり、使ってもいいかどうかのお尋ねがあって、もしお役に立つことがあるならどうぞなどと迂闊に返答していたものが、まさかこういうことになるなど思いもよらず、とても光栄なことではあるけれど、それよりも驚きと恐縮でいたたまれない気持ちになりました。
このピアニストにつては、いずれまた触れていきたいとは思いますが、日本人ピアニストとは思えぬスケールの大きさと、技巧と、熱量と、演奏に対する峻厳なスタンスを持つ方ですが、なぜか、どうしてなのか、その理由はわからないけれど、日本では適切な評価を受けないまま今日に至っているのです。
いかに実力があっても、一定のコマーシャリズムにのらなければスターピアニストとして遇されないということかもしれないし、ご本人がそういう俗事に関わりたくないということかもしれませんが、いすれにしても、こういう本物のピアニストの存在に気づき、発掘し、光を当てるという積極的努力を怠って手を付けることをしなかった日本の音楽界に、あらためて失望するきっかけとなりました。
私自身はじめて聴いたとき身震いがしたことをいまでも生々しく覚えており、そのときの興奮に任せて書いたものがやがてお目に留まったのでしょう。
むろんCD購入時もブログのブの字もいいませんでしたが、これがいわゆるネットの恐ろしさというものでしょう。
草野さんの演奏に接して、惜しみない賛辞を贈ったのは、伝説の巨匠として名高いシューラ・チェルカスキーだそうです。
チェルカスキーのみならず、ホフマンやホロヴィッツのような、絢爛たる演奏で聴衆を酔わせ、演奏それじたいが放つ一期一会の音の魔力に身を委ねるということが、本質的に日本人には合わないのか?とも思ったりしますが、どうもそのあたりのことはよくわかりません。
少なくとも、日本における演奏評価の基準は、ありふれたピアノ教育の延長線上に実を結ぶつるんとした果実のような、どこかイジケたような小粒なもののほうが性に合うのかもしれません。
ご存じない方は、今からでもYouTubeで検索してみてください。
数は多くはないけれど、驚くような演奏がでてきますよ!