油圧式ベンチのメリットは、従来のもののように木と金属をネジで止める構造ではなく、座面のクッション部以外はほぼ金属のみで構成され、ベースは溶接一体式なので、捻じれや軋みが出る要素が圧倒的に少ないというところにあるようです。
しかも簡単なレバー操作で、油圧式の座面がサッと上下するので、丸いノブを延々ぐるぐる回す必要がないのは画期的。
数社から類似品が出ているようですが、外観からはなかなか見分けがつかず、イタリア製とかスペイン製などとあるだけで、実際に座り比べのできるような店もなく、ピアノの椅子がないわけでもないので、しばらく静観することに。
イドラウ社というスペインのメーカーを知るようになったのもこの頃で、ファツィオリなどはイドラウ社のベンチを使っているようで、以前の「バルツかジャンセンか」の時代は過ぎ去り、ランザーニ、ディスカチャーチ、アンデクシンガーなどのメーカー名も次第に広がってきたように思います。
そもそもマロニエ君はピアノにこだわるなら、それを弾くための椅子はとても重要という考えで、靴にこだわるのとどこか通じているかもしれません。
どんなに素晴らしいピアノでも、椅子がサービスのしょぼい廉価品では、座り心地はむろんのこと、ビジュアルとしてもキマらない感じがするのです。
普通のピアノでも、コンサートベンチを置いただけでたちまち風格が漂い景色が変わるし、使い心地においても安定感があって快適なので、個人的にはコンサートベンチはピアノの如何にかかわらず強くオススメします。
ところが、ピアノにはこだわっても椅子には一向に関心を向けない方って多いんですね。
この何年かの間に、知り合いなどでピアノを買われた方が何人かおられ、そのたびに椅子はいいのを買ったほうがいいとアドバイスしますが、そうされたのは約半分。
買われた方は、みなさん例外なく「買ってよかった」「気がつかなかった」といわれ、その余裕ある座り心地を日々実感されているようです。
実際、コンサートベンチは一度使うと、おそらく二度ともとには戻れないもので、見た感じもいかにも本物といった重厚感があふれて、ピアノはもちろん部屋の雰囲気まで一気に引き立ちます。
かくいうマロニエ君も、自室のシュベスターにもはじめに買ったコンサートベンチを使っていますが、アップライトでもとても似合いますが、それを見た調律師さんも「アップライトでこういう椅子を使われる方はいないですね」とのこと。
ちょっとしたことで、練習にも身が入るんですけどね…。
アップライトにカバーを掛け、普及品の椅子を置くと、それだけで「子供にピアノやらせてます」的な雰囲気で、むこうからおかずの臭いがしてきそうですが、コンサートベンチひとつでまったく違った世界になります。
さて、油圧式ベンチですが、それほどお高いものではなくだいたい10万円前後で、その中ではイドラウがややお安いぐらいでしたが、日本のイトーシンからも似たようなものが発売され、こちらは価格は約半分。
なんでもドイツのヤーン社のOEM生産品ということのようですが、なんかカタチが好みじゃなくてこれはボツ。
で、イタリア製とやらもどこで売っているのかもよくわからないし、そうなるとイドラウかなあと思っていたところ、ドイツのアンデクシンガー製があることがわかり、お値段はほんのちょっと高めですが、ドイツ製の椅子はひとつもないのでその点でも惹かれました。
調べていくと評価も高く、ベーゼンドルファーの取扱店や、ファツィオリも油圧ベンチに関してはアンデクシンガーを推奨しているようなので、結局これを買うことに決めました。
それが最近届いてさっそく使っているのですが、さすがはドイツ製だからか、あるいは油圧ベンチ全般がそうなのかはわかりませんが、腰を下ろすとギョッとするほどしっかりしており、まさに床に固定でもしたように微動だにしないのはかなり驚きました。
加えて高さ調整の簡単さは群を抜いており、この点で重宝されていたトムソン椅子でもいちいち後ろに回って上げ下げしなくてはいけなかったものが、油圧ベンチは座ったままサッと微調整もできて、とくに奏者が入れ替わるコンクールや発表会などでは、もはやこれに勝るものはなく、その手のイベントには必須アイテムではないかと思います。
そうは言っても、うちでピアノを弾くのはマロニエ君のみで、高さ調整も一度すればほとんどする必要もなく、さほど役に立っているとも言えませんが、ピアノを弾くお客さんがみえたときには役に立つことでしょう。
現在グランドの前にはランザーニとアンデクシンガーのベンチが2つ並んで、なんとなく自己満足。
後からネットで知ったことですが、ランザーニ社は社長の死去に伴って会社自体が廃業した!とのことで、もはや購入できなくなっているとのこと、思いがけなくコレクターズアイテムになってしまったようです。
追記:文中の日本製と思っていた油圧ベンチは、ネットでよくよく調べたら近隣国での生産品でした。うっかり日本製と勘違いするところでした。
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