カレンダー

ベヒシュタインのカレンダーというのがあるようで、先月たまたま手にしました。

ふた月ごと、大小2枚(計12枚)の写真があしらわれたもので、19世紀の工場の様子を描いた銅版画(おそらく)からはじまり、ワーグナー夫妻とリスト、ハンスフォン・フォン・ビューローがベヒシュタインの前で集う様子、ベルリンの国会議事堂に納品される写真、贅の限りを尽くしたヴィクトリア女王のベヒシュタイン、バックハウスとベヒシュタインなど、貴重な絵や写真にすっかり見入ってしまいました。

ロンドンの良質なコンサートが行われる会場として、現在もその権威を保ちながら存在するウィグモア・ホールは、もともとはベヒシュタイン・ホールであったとは!?今回はじめて知って驚きでした。

まさに、このピアノメーカーは、音楽の歴史とともにあったということが窺えるものでした。


これとは対照的だったのが、暮れにいただいたS社のカレンダー。

こちらもふた月ごと、6枚の写真があしらわれたいつものスタイルですが、今回のものはとくにパラパラッと見たときから首を傾げたくなる感じが。

後部ページには『S(ブランド名)のある暮らし』とあり、『世界中の邸宅でご愛用いただいているSピアノの美しい写真を題材に制作いたしました。』と記されています。
しかし、そこにあるのはまるで人の気配など感じないマンションの広告のような光景ばかりで、あまりの無機質な感じはピアノのある心なごむ空間どころではありません。
いまどきは、ちょっとした家電のタカログでも、もっとオシャレでヒューマンなぬくもりの演出は欠かせない要素となっているものですが…。

中でも5/6月と7/8月は際立っており、その言い知れぬ違和感に思わず見入ってしまいました。
すぐにわかったのは、なんとこの2枚のピアノは、アングルからイスの位置までまったく同じ写真で、いわゆる合成画像でした。
今の時代、報道写真でもないのだから、合成というのもアリかもしれません。
しかし、技術的にも、センスにおいても、これはいささか…と思いましたし、隣り合わせに同じ写真を使うというのも、もうちょっと配慮はなかったのかと思います。

部屋とピアノは、それぞれ光の感じも質感も違うし、部屋を写したアングルと、ピアノ写したカメラでは目線の高さがズレているのか、床と鍵盤が並行に見えないあたりは気持ちが悪くなりそうです。
今どきこんなレベルのフェイクがあるのかと、正直おどろきました。

メーカーにしてみれば、ただピアノを見せるのでなく、自社のピアノがさまざまな場所に置かれたイメージによって、ゆくゆくは販売に結びつけようという目論見があるのかもしれません。
とくに現在は何にも優先して新品の販売に的を絞っているのかもしれませんが、それにしてももうすこしやり方はなかったのかと首をひねりました。

それと、甚だ申し訳ないけれど、あれが「世界の邸宅」などとといわれても、本当にそう思う人なんているんでしょうか?
せいぜい海外のTVドラマのセットぐらいなもので、ましてそれがSピアノのイメージを高め、購入への一助になるなんて、とうてい思えませんが…。

ちなみに、今は「邸宅」の概念も変わっているのか、なにかというと総ガラス張りで海が一望できたり、タワーマンションの上層階で夜景が楽しめたり、友人とバーベキューができるみたいなことが贅沢の象徴とされており、ともかく文化のレベルが猛スピードで衰退しているように感じます。
そんなに海と夜景とバーベキューって重要ですかね?

少なくともそういう価値観に遠くないカレンダーでした。
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