先週の連休最終日に非常に珍しいことがありました。
午前11時半ぐらいだったか、チャイムが鳴ったので出てみると、黒マスク姿のいかつい感じの中肉中背の男性が門前に立っていました。
出て行くと、いきなり警察手帳を見せられて、実はある捜査をおこなっているとか。
もしお願いできるなら我が家の敷地内、南北二方向に入らせてもらって、しばらく見張りをさせていただきたいという要請を受けました。
藪から棒にそんなことを言われてびっくりしたのですが、具体的な説明や言葉を避けながら、とある人物(単独か複数可かは不明)を追っているという事はかろうじてわかりました。
犯罪捜査に協力するのも市民の努めだろうと思い、承諾する前に再度警察手帳を見せてくださいと言ったら、すぐに応じてくれて、いかにも使い込まれた感じの二つ折りの黒い革の手帳を広げてそれらしきものを見せてもらいました。
とはいえ、テレビや映画ぐらいでしか見たことはないから、それが本物かどうかまではわかりませんでしたが、同時に名刺を渡され、県警本部の人らしく、二列に及ぶ長々とした肩書が右横にあって、名前の上に刑事部長とあり、ともかく「どうぞ」ということになりました。
刑事さんなので色のない地味な私服で、車も普通の軽自動車でした。
敷地の南北に別れ、一人は裏庭に通じる通路に身をひそめ、もう一人はガレージ前に車を止めてその中から監視がスタートしました。
「これって、ええっと、なんだっけ…なんだっけ?」と思いながら、やっとのことで「張り込み」という言葉を思い出しました。
我が家は蚊が多いので、蚊取り線香に火をつけてもって行きましたが、「すみません、ありがとうございます。」という簡潔な言葉だけで、それ以上の言葉は一切なく、じっと道路側を見ていました。
むろん、こちらが手伝うこともないわけで、早々に家の中に入りましたが、それからの長いこと長いこと。
やはりドラマのように年配のベテランさんと、若い部下と思しき二人組で、車内と庭を一定時間で交代しているようでした。
でも、じんわりすごいものを見た気はしましたね。
「張り込み」というのは、まさに見ることが仕事で、他にはなにもしないので、ただひたすらそこに30分でも1時間でも自らの存在を消すようにひっそり立っているだけで、見ること以外なにもしないことに、却って近寄りがたいような迫力がありました。
さらに、しっかり目的をもって道路の方角をずっと見ているためか、目元にはえもいわれぬ鋭さがあり、普通の人の表情とはあきらかに違う厳しさがどうしようもなくあたりに漂います。
むろん雑談なんぞする雰囲気も皆無で、こちらもたまに見に行ってはそそくさと引き上げますが、はじめはほんの1時間ぐらいだろうと思っていたところ、お引取りまでに要した時間はきっちり6時間にも及びました。
その間、別にこちらがなにか規制されたわけでもないのだけれど、なんとなく普段とは違って、家の内外をウロウロするのも憚られ、やはり精神的にそわそわするばかりで非常に疲れました。
しかも、最後に大捕り物があったわけでもなく、収穫無しでのまことに静かな終了でした。
6時間も場所貸ししたのだから少しぐらい聞いてもいいだろうと思って、最後に少し話をすると、新手の窃盗だということだけは聞きました。
マロニエ君宅のあたりは市内でも古くからある住宅街で、あまり物騒なことなど聞いたこともなかったので、こんな珍客には大変驚いたわけですが、やはり時代も変わり、コロナ騒ぎなどもあり、いろいろな目に見えない変化とか、人心の乱れが渦巻いているのかもしれません。
それにしても、警察官や刑事さんの仕事の大変さをあらためて痛感しました。
テレビの『警察24時!』みたいな番組は好きなので時々見るのですが、あれはいわば娯楽番組として成り立つよう見どころだけを編集されているものですが、よく「内定一ヶ月」なんてナレーションを聞きますが、実際は半日でもとてつもない重労働だと思いました。
よほどの訓練と忍耐力、それを支える精神力と体力、くわえてある種の慣れみたいなものが備わらないと、とても常人に務まるものではないと思いました。
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