ヤマハのグランドピアノには大別すると3つのシリーズがあり、レギュラーのCXシリーズ、中間グレードのSXシリーズ、最高級のCFシリーズで、スタインウェイのBとお値段も遜色ないCF6の現物にはまだお目にかかったことさえありません。
過日、ある調律師さんによると、これに触れる機会がおありだったらしく、音の良さもさることながら、驚かれたのは昔のピアノのように、チューニングピンが固定されるピン板が、外部にむき出しになっているという点だったようです。
たしかにそれはちょっとした驚きですね!
コンサートグランドのCFXは違うのに、なぜ同じ最高級シリーズのCF4/CF6ではピン板が露出しているタイプなのか。
昔のピアノのピン板部分はフレームの鉄骨も大きくくり抜かれており、板が直接見えるものがほとんどだったようですが、時代の変遷とともに、このスタイルはほとんど姿を消したように思います。
音量やピンの保持力に問題があったのかと勝手な想像はしていましたが、実際のところはよくわかりません。
ベヒシュタインなども、昔はピン板が出ていたピアノばかりでしたが、近年では順次ニューモデルへと切り替えられ、それらはいずれもピン板はフレームの下に隠れて見えない作りになってきているので、てっきりそれが現代の常識かと思っていました。
具体的にその違いがどういう効果をもたらすのかマロニエ君にはわかっておらず、ただなんとなくピン板の見える仕様は旧式で、見えないスタイルが現代流と思い込んでいたので、そこへ、まさかヤマハがCFシリーズという新しい最高ランクのピアノにそういう機構を取り入れるなんて、思いもしないことでした。
ちなみにヤマハの子会社となったベーゼンドルファーは、現行モデルでも、いまだにピン板が露出する方式のようなので、ここらと関係があるんでしょうか。
YouTubeで探すと、こんな弾き比べの動画がありました。
https://www.youtube.com/watch?v=FL81a7rnD0g
たしかに、いかにも今風な「どうだ!?」といわんばかりのわかりやすいキレイな音ですね。
好みや感じ方は、各人各様だと思いますが、マロニエ君の素直な印象を敢えて述べますと、音のキレイさがいささか前に出過ぎており、試弾した人を納得させるには充分だろうとは思いますが、どこか電子ピアノ的な無機質なキレイさで、さてこれで実際の音楽が奏されたとき、曲に内包される味わいとかこまかな情感を写し取ることができるんだろうか…という感じがします。
ピアノの音をここまでにもってくるMade in JAPANの力ってある意味すごいと思いますが、同時に、そこに西洋発祥の楽器作りという根底があるかぎり、これが限界のような感じがしなくもありません。
かつて「日本人には本物の靴や椅子は作れない」と言われたことがありますが、それは我々の中にある遺伝子や生活様式とは相容れないところにその真髄があるからだというような意味でしたが、似たようなことがピアノにもあるのかと思ったり。
さて、対するベーゼンドルファーはやはり個性的で、このピアノだけにしかない濃密な世界があり、華やぎと暗さとが同居する独特な美しさ、歴史の重み、豪奢なウィーンの香り、あらゆるものが屈折して混在しています。
美しく上品な中に、ほんのわずかに汚らしいものが見え隠れするあたりも、一言では言い表すことのできない、まるでリヒャルト・シュトラウスの退廃的なオペラのようでもあります。
いっぽう、いつも感じることは、弾き比べの場においては案に相違して意外に地味で、控えめで、取り立てて特徴のないような印象を与えてくるのがスタインウェイ。
キラキラだ、派手だといわれるけれど、他社のピアノと並べて直接対決すると意外やもの静かで、明快な主張さえも少ないような印象があります。
とくにそう感じるのはアタック音が控えめで、弦楽器のようなやわらかな響きと重層的なハーモニーに重きを置くような音の出方だと、比較の場において強いインパクト性という点では不利なのかもしれません。
でもスタインウェイのすごいところは、曲になったとき音楽として最も成熟した落ち着きとまとまりがあるところで、そこがピアノとしてサマになるという点ではないかと思います。
音としての純粋な美しさという点でいっても、必ずしも一番ではないかもしれないけれど、スタインウェイにしかない奥深い心地よさがあっていつまで聴いても飽きないし、耳も神経も疲れないのも深い秘密がありそうです。
耳に直接というよりは、人の気分や感覚を通して、からだ全体に聞こえてくるという感じ。
マロニエ君は真に美しいものには、複雑と収束、精神性、清濁さまざまな要素を兼ね備え、互いに意味を持ちながら高みに達したときに到達する領域の景色だと思うので、ただ雑味を取り払い、無キズでピカピカに磨き上げたものとは似て非なるものだと思うのです。
*
ちなみにCF6って、カタログを見ている時からかなり不思議な点があります。
それはグランドの特徴である3本の足の前の2本の取り付け位置(とくに見えやすい右側など)ちょっとアンバランスなほど前に寄せてつけられている点。
ビジュアルとしてはいささか異様な感じをうけるのも事実ですが、これほどの高級機種でのことだから、なにか根拠があるのだろうとは思われ、その「理由」をいつかぜひ知りたいもの。
それにしても、まったく同じYAMAHAのロゴが付いた、まったく同サイズのピアノで、C6Xで324万円、S6Xでほぼ2倍の594万円、CF6でさらに2倍以上の1364万円と、C6Xを4台分でもまだ足りない価格設定なんて、こんな大胆なメーカーは世界広しといえどもおそらくないような気がします。
続きを読む