今年はショパン・コンクール開催で、ピアノネタに相乗りということもあるのか、このひと月ほどでしょうか、TVでもピアノ関連の番組が目白押しだったように感じます。
Eテレの『クラシック音楽館』は、もともとN響定期公演などをメインとする番組ですが、邦人作曲家のピアノ作品を集めた「日本のピアノ」や翌週には「ショパン・コンクールのレジェンドたち」といういずれもピアノに深くフォーカスした2時間でした。
日曜深夜のBS『プレミアムシアター』でもピアノ特集があって、「ザルツブルク音楽祭2021 キーシンリサイタル」「アルゲリッチ&バレンボイム デュオ・リサイタル」、「ツィメルマンの皇帝」「ホロヴィッツ・イン・モスクワ」などが一挙に4時間以上放送されました。
早朝のクラシック倶楽部では、覚えているだけでも江口玲、松田華音、清水和音、クン・ウー・パイク、アンドラーシュ・シフ、小山実稚恵、若林顕、広瀬悦子、務川慧悟、藤田真央、さらにはショパンコンクールにちなんで反田恭平、小林愛実と続きました(敬称略、再放送を含む)など、たて続けでした。
まだあったかもしれませんが(もう思い出せない、少なくともこんなにも集中的にピアノが採り上げられたことは、これまであまりなかったように思います。
そのほかにも『題名のない音楽会』や『CLASSIC TV』なども、やたらピアノを取り扱った内容が多かっようですが、とても網羅はできません。
見た範囲でいうと、内容的には玉石混交で、感銘を受けるものからくだらないと思うものまで、さまざまありましたが、おしなべての感想としては、若い方の演奏はメカニカルで解像度が高いあたりは今風ではあるけれど、どうしても音楽として乗っていけない壁が必ずあり、片やベテランの演奏はときにヘンなときもあるけれど、概ねそのあたりはさすがだなと思います。
『クラシック音楽館』の「日本のピアノ」では、今日ほとんど演奏されることのない昔の邦人作曲家によるピアノ作品(それも特に協奏曲)が現在若手のホープとして活躍する日本人ピアニスト達の闊達な演奏によって3曲紹介されましたが、これらは、なるほど先の大戦前後にかけて書かれた日本作曲界の歴史的意義としては注目すべきものがあるようです。
そんな時代に書き上げられていたという先人作曲家たちの奮励努力には頭が下がるものの、個人的に聴いた感覚としてはおよそ理解不能で、ところどころには赤面するようなところも感じるなど、こんにち演奏される機会がほとんどないのもやむを得ないというのが率直な印象でした。
美術品ならただ見れば済むし、文学なら興味のある人は読めばいいわけですが、音楽の場合は演奏されてはじめて音となるため演奏者と練習が必要となり、さらに協奏曲でオーケストラまで動員するとなると、その多大なエネルギーは簡単なことではなく、これは直接的な収益を求めないで済むNHKにしかできないことだろうなあと思いました。
「日本のピアノ」というからには、楽器としての日本のピアノ発達史にも少し触れて欲しかったのですが、そちらはまったくなかったのは残念でした。
いまやショパン・コンクールの公式ピアノ4メーカーのうち、その半分が日本製ピアノなのだから、それは素直に驚くべきことで、そこに至る日本のピアノ産業の発展や変遷などを辿って検証してみることは意味のあることだと思うのですが。
とくに西洋音楽の素地のない東洋の果ての海に浮かぶ小さな島国が、ピアノという大掛かりな、ただ音階が出ればいいというものではない精妙複雑な西洋楽器の製造に着手し、いつしか一大産業にまで成し得たというのは注目に値することで、これは大げさに言うなら奇跡に近いものがあるのでは?と思うので、それは番組のテーマとしても充分に耐えうるものだと思われ、いつかじっくり採り上げてほしいものです。
それも、できれば現役の大手メーカーだけではなく、消えていった数多の優良なメーカーにも歴史としての光を当ててほしいものです。
日本人はなにかというと「決して忘れてはいけない…」というような言葉を乱発しますが、だったらヤマハカワイだけではない幾多のメーカーや開発者が、いかにしのぎを削って日本のピアノ製造をものにしていったのかということを忘れないためにも、一度きちんと整理してNHKの番としても残して欲しいと思います。
NHKにはファミリーヒストリーという著名人の家系や出自を、本人さえも知らないことまで徹底的に調べ抜いて紹介する番組がありますが、ああいう感じで日本のピアノ発展史もわかりやすく紐解いてもらえたら、かなりおもしろいものになるだろうという気がします。
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