蛇足ながら…
従来のニューヨーク・スタインウェイの外観デザインは、時代をさかのぼるほど繊細で装飾的なラインが重ねられた独特な味わいと風格があり、まさにニューヨークの歴史的な建築や景観にも通じる美しさがありました。
勝手な連想かもしれませんが、フランク・ロイド・ライトの世界にも通じるような、気品に満ちたアメリカの(しかも繊細な)造形美を感じないではいられないもの。
それが今回の変更にあたって完全消去され、ピアノにおけるニューヨーク流の意匠や様式を失ったことは甚だ残念で、時代と割り切るしかないのでしょうが、なかなか簡単には割り切れません。
複数の技術者さんから伺った話では、このところスタインウェイをとりまく状況もずいぶんと変化があり、わけても修理をする側にとってはかなり深刻な事態に陥っていると、口をそろえてみなさん言われます。
特筆すべきは、消耗品や中古補修のための純正パーツ類の入手が極めて困難となっているそうで、これは古いピアノが蘇る修理をさせないようメーカーがパーツ供給の元栓を閉めたという意味でしょう。
どうしても入手したい場合は、しかるべきルートを通じ、手続きに則って言い値で入手するしかないとか。
メーカーには以前から『スタインウェイ最大のライバルは、他社ではなく、中古スタインウェイである』という認識があり、これはわからなくはありませんが、だからといって古い個体を生きながらえさせるためのパーツの供給を断つことは、ビジネス理論としては正論だとしても、楽器メーカーのやり方としては疑問を感じます。
古いピアノにはそんな冷淡な態度をとりながら、一方で新品価格は容赦なく値上げされている現実にも、ヒリヒリするような厳しさを感じます。
では新品の品質はそれだけ素晴らしいのか?といえば、大いに疑問ありで、そもそも米独共通化の目指すものはコストダウンという面もあるように思われます。
聞いた話でついで言うと、近年最大のマーケットであり、一時はあちらで製造までされているのでは?というようなウワサまであった中国ですが、現在は状況が一変のようです。
人々がピアノから一斉に離れてしまい、当然ピアノビジネスは直撃を受け、パッタリ売れなくなってしまったのだそうで、そのあまりの急激な変化には、ただただ驚かされます。
ネットニュースによれば、政府指導部の決定で、芸術分野優秀者への進学に関する優遇措置が、小中高大学において段階的に廃止されたらしく、それで蜘蛛の子を散らしたように人々がピアノから離れてしまうという、いかにもあの国らしい現象。
まさに鶴の一声で世の中がひっくり返るお国なんだということがはっきりわかります。
一時は飛ぶように売れていた日本の人気ブランドでさえ、現在は値下げしても見向きもされないようで、本当に予測のつかない高リスクのマーケットのようです。
スタインウェイにおけるニューヨーク/ハンブルクの共通化には、そんな事情も絡んでいるのかいないのか、そのあたりはわかりませんが、どうしても関連付けて考えてしまいます。
ちなみに、ドイツもGDPで日本を抜いたというニュースが駆け巡っていますが、実際は極右政党が出てくるほど景気の不安が広がり、その一因が主要輸出品目である自動車などの中国市場での大幅な販売減だとも言われており、まだまだ当分はあの国によって世界は振り回されるのでしょうね。
自動車といえば、こちらはかなり前から世界各地に生産拠点が分散され、ドイツの☓☓☓といっても、生産国は南アフリカだった!などということは珍しくなく、割り振られた番号や記号などから、ようやく生産国を知ることができるようになっています。
製品には生産国の表示義務があると聞きますが、クルマの場合どこにもMade in ☓☓☓といった表記はないし、日本車もわざわざ「日本製」とは書いていませんよね(たぶん)。
ベヒシュタインはドイツ製を謳っていますが、近年はチェコとの国境近くに工場があって、一部か全員かはしらないけれど、多くのチェコの労働者が作業しているというような話を聞いたこともあり、ベヒシュタインの廉価ブランドのホフマンがペトロフで作られているということからしても、なるほどなぁ…と思ったり。
いつの日か、スタインウェイもどこ製か伏せらてわからなくなる日がくるのかも?といった想像さえしてしまうこの頃です。
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