無知と悪習

他の楽器はともかく、ピアノに「メンテ」という言葉はあまり馴染みがありません。
「調律」という言葉がそれに代わるものとして、あいまいな概念として通用しているだけです。

そもそも、ピアノは楽器というより、音階の出る大型装置のように捉えられているフシがないでしょうか?
数人がかりでないとちょっと動かすこともできないサイズと重量があり、このあたりも手入れを必要とする繊細な楽器という意識が抱きにくいのかもしれず、それはイメージとしてわからないではありません。

しかし、少しでも、ピアノのことを深く知ろうとすれば、それが間違いであることは明らかで、音色やタッチは僅かな感興の変化でも変わってくるし、それを知ることはそう難しいことではありません。
しかし、ピアノに限っては、そういう部分が見過ごされ、理解されないまま放置されるのが一般的。

音楽に限らず、何かを学び始める際、使う道具の手入れも同時に学んでいくの通常は当たり前ですが、なぜかピアノにそれはなく、私が知るかぎりでも、ピアノを弾くことはかなり好きな方でも、楽器にはほとんど注意を払わず、無関心に近いものを感じます。
せいぜいメーカー名と、アップライトかグランドかという違いぐらい。

音楽する人間は、楽器の健康にも敏感であることが不可欠であるのに、ピアノの場合、まず先生といわれる人達が使いっぱなしの代表格で、教室のピアノの酷さときたら、ピアノにうるさくない人の口からも不満が聞こえてくるほど。
これでは、生徒が楽器を慈しむような心が育つはずもありません。

とくに悪質なのは、お弟子さんをたくさん抱える有名な先生などになると、生徒のピアノ購入などにもかかわったりするためか楽器店が頭が上がらないのをいいことに、中には自分のピアノに関することはすべてサービス扱いが当たり前のように思っている先生もおられる由で、ある修理が終わって請求書をわたそうとしたところ、「えっ、私に請求するの?」と真顔で云われた…というようなウソみたいな話があったりします。
こうなると「請求を取り下げる」か「出入り禁止になるか」のどちらかでしょう。

さらには楽器店の人材は、発表会やコンサートになると、土日などがお構いなしに準備から片づけまでフルに駆り出されるのは普通で、私はこういう光景を目にするだけでも内心では憤慨します。
今風にいえばパワハラかイジメの類だろうと思いますが、こういう悪習は脈々と受け継がれて、なかなか正されません。

近年はやれ人の権利やブラックな環境が厳しく問題にされる時代ですから、こういうことも昔からの慣習とも決別し、毅然として相応の対価を求めるべきでは?
大手の楽器メーカーが共同戦線を張れば、可能だと思うのですが…。