試弾は使用になる?

ピアノの劣化、あるいはパーツの消耗という点でいうと、クルマや電気製品などに比べたら、そのスピードは(使用頻度による差もある)はるかにゆるやかとは思いますが、それでも弾けば確実に消耗することも事実でしょう。

ピアノ店では、展示されているピアノは、お店の許可を得れば基本的にどれも試弾可能で、仮に一台の新品ピアノが数ヶ月から年単位で展示されたとしたら、その間にどれだけの人がどんな弾き方で試弾するのかわかりません。

どこかのタイミングでもし買い手が現れたとき、よほどの長期在庫品でもない限り、それは「新品」として扱われ、販売され、買う側もとくにその点を気にすることはないようです…今のところ。

しかしこれは、ピアノなど一部の商品に限った話で、クルマなどはひとたび試乗車として下ろしたら、その瞬間から「中古車」となり、価格もそれに見合ったものになるのが当たり前です。
もっとすごいのは家電などで、プラグを一度でもコンセントに差し込んで通電してしまうと、お店はもう新品として販売できなくなるのだそうで、新品というものはかくも厳しい条件を課されているのか!と驚いたものです。
これに比べたらピアノの新品の条件はゆるゆるです。

新品好きな日本人はとりわけ厳しいものがあるようで、どうかすると外箱のダンボールの傷みさえ嫌ったりしますが、そんな日本人でさえ、ピアノに関してはずいぶんと鷹揚だなあと思います。
ピアノにもし、クルマや家電のような新品の基準があったたなら、新品はほとんど存在しなくなるかもしれません。

クルマにはオドメーターがあるので、製造時から何キロ走行したかは一目瞭然です。
もし500kmでも走ったクルマを新車として販売しようものなら、それは裁判沙汰になるような事ですが、ピアノで同等の使用があってもまったく問題とはならない。
これは実用の点からもまったく問題ではないことが一番大きいし、そもそもどれだけ弾かれたなんて確かめようもないからでしょう。

仮にピアノの88鍵にそれぞれカウンターがあり、受けた全入力を記録することができるなら、人はそれを気にするようになり、弾かれた量が少ないほうが好まれるという実勢がうまれるかも。

幸い、今はまだそんなことにはなっていませんが、こんなくだらないことを考えるのも、時代の急激な変化によって、従来当たり前とされていたことが、ある日を境に許されない行為になったりすることが多いので、ついあれこれ想像を巡らせてしまいます。
ピアノという楽器の性質上、新品の試弾が全面禁止ということはないとしても、きわめて限られた時間とか、店側の監視つきとか、あれこれの条件がついて、少なくともお気の済むまでというわけには行かない制限は、今どきの新しい価値観に直面したとき、起こっても不思議じゃない気がします。