楽器解体新書

ネットで偶然見つけたのですが、ヤマハのホームページ内には意外におもしろいページが隠されていることを知りました。

「楽器解体新書」といって、いろいろな楽器の仕組みや弾き方の解説などが掲載されていて、そこには「楽器のここに、こういうことをしたらどうなるか?」というような一般向けのわかりやすい実験を紹介するコーナーまであります。

ピアノの覧では、グランドピアノの金属フレームには、いくつもの丸い穴が開けられていますが、それを塞いでみるとどうなるか?というような実験をやっています。
通常の状態と、そこにフタをした状態で、それぞれ和音が鳴らされますが、パソコンスピーカーからの音では明確な差ではないものの、塞がれたほうが広がりのない単調な音になるのはかすかにわかります。

さらにおもしろい実験が2つありました。

そのひとつ。
調律のユニゾン合わせに関する実験で、ピアノの中高音にはひとつの音に対して3本の弦が張られていますが、これは単純に3本をきれいに同じに合わせればいいのかというと、まったくそうではなく、そこに微妙な変化をつけることで、音に色や味わいがでるわけで、それはどういうことかという実験です。

つまり3本をどの程度合わせるか、あるいはどれぐらい微妙にずらすか、それらの差を耳で感じるもので、少しずつ差をつけることで4種類の音が聞けるようになっています。

ひとつは3本がまったく同じピッチに揃えてあり、これはただツーンという感じでおもしろくも何ともない無機質な音。伸びもないし、まったく楽器らしい息づかいもニュアンスもありません。

残る3つは1本を正しいピッチに合わせ、のこる2本はそれぞれ上下にわずかに音をずらして調律されています。このずらし方が3段階あって、それぞれどんな音になるか、その違いを聴いてみるということができるというもので、これは画期的なものだと思います。
ずらしすぎると汚いうねりが出て、まったくいい音とは言いかねるもので、いわゆる調律の狂ったピアノそのものの音でした。

ところが3本のユニゾンのズレがほんのわずかとなる狭い領域では、微妙な味わいや音の伸びなど出てきて、ピアノの音が音楽として歌い始めるスポットが存在しているようです。
揃いすぎればただのつまらない音、ずれすぎれば汚い非音楽的な音、その間のスイートスポットは極めて狭いけれども、ここが腕のふるいどころのようです。

このごくごく狭いスポットの中で、調律師は目指す音をどのようにもっていくか、そこに技術者の経験が問われ、音楽性や美意識があらわれる部分で、しかもこれが絶対正しいというものもありません。
調律をつきつめると芸術領域になるというのもこのためです。

もちろん調律師さんなどは先刻ご承知のきわめて初歩的なものですが、このように簡単な比較として、シロウトが誰でも聞くことができることによって、ユニゾンの合わせかたしだいで楽器の性格や音楽性がくるくる変わってしまうという「基本」が自分の耳で理解できるのは素晴らしいことだと思います。

池上章さんの「そうだったのか」ではありませんが、こうして解っているようで解っていないことを丁寧に噛み砕いて教えてもらえるのは非常に大事なことだと思います。
そういう意味で、さすがはヤマハだなあと感心させられました。

もうひとつは次に書きます。