日曜に出かけて買い物をしていると、携帯に懐かしい方から電話がありました。
かつてマロニエ君宅のピアノの主治医だった方ですが、ここに書いても意味のないような込み入った事情があって(むろんトラブル等があったわけではなく)、現在はその方に調律などはお願いしていない状態です。
それでも、ちょこちょこと交流は途絶えることはなかったものの、さすがにこの数ヶ月はご無沙汰状態が続いていたところでした。
電話に出るなり、「ハハハ、ちょっとヒマなので失礼かと思いましたが電話しました。」と云われました。マロニエ君としては、むろんお話ししたかったのですが、なにぶん出先で買い物の真っ最中とあってどうしようもなく、あとからまた電話する旨をお伝えしていったん電話を切りました。
帰宅後にかけ直すと、近くまで来られていて時間があったのでコーヒーでもと思ってお電話されたそうでしたが、今からあるホールの仕事に行かなくてはいけないとのことでしたので、しばらく電話でおしゃべりし、お茶はまた次回ということになりました。
特段の用があるわけでもなく(しかも現在は調律をお願いしていないのに)、気軽にこういうお電話をいただくのはマロニエ君としてはとても嬉しいことです。というか、むしろ用のないときに連絡をいただけることのほうが気持ちの上では遥かに嬉しいものです。
ピアノというのは、同業者を別にするなら、それなりの話の通じる相手というのはなかなかいないので、その点でマロニエ君は珍しい存在なのかもしれません。
…いやいや、この方はホールやコンサートの第一線でお仕事される方なので、マロニエ君ごときシロウトが「話が通じる」などと云っては申し訳ないでしょう。ここで云うのは深い意味ではなく、ただ純粋にピアノの話ができる(あるいは興味を持って聞きたがる)相手というほどの意味合いです。
ピアノの世界は非常に奥が深く、かつ専門領域なので、普通の人は興味もないし、話をしても理解できないので、潜在的に話のわかる人を渇望しているという部分はあるように感じます。その点、同業者ならそんなことはないでしょうが、そういう交流があるのかと思いきや、意外にそうでもないようです。
ピアノに限ったことではないかもしれませんが、業界人同士というのはともすればライバル関係でもあり、とりわけ技術者にはプライドや競争心もあるでしょう。各人で仕事への考え方やスタンス、価値観も違ったりすると、これはこれでいろいろとややこしい問題を孕んでいるとも云えます。
そもそもピアノ技術者というのは、他者と共同でする仕事でもなければ、仲間の連帯がものをいう世界でもなく、基本的に一匹狼的な要素が他より強い仕事なのかもしれません。
また、仕事にはお得意さんやテリトリー、販売店などの絡みもあって、かなり閉鎖的で気を遣う世界でもあるようです。ちょっとしたことが思わぬウワサや不利益に繋がるということも珍しくないでしょうし、そういう意味ではピアノの技術者さんというのは、常に心のどこかに用心深さがあることが職業病のようになっていることをときおり感じます。
その点で云うと、マロニエ君は同業者でもなく、当然どこにも利害関係のない人間で、しかもピアノは大好きとなれば、暇つぶしには最適なのかもしれません。
ついでにいうと、マロニエ君の興味の対象はクラシック音楽からピアニスト、そして下手なりに弾くこと、さらには楽器としてのピアノというものにも及んでいるので、これでも、専門家が却ってご存じないようなくだらないことを知っていることもあり、まあそれなりに話し相手にはなるのかもしれません。
そういう意味でも、もともとはこの「ぴあのピア」がプロとアマチュアの垣根を超えた「広義のピアノクラブ」になれたらと思っているのですが、気持ちばかりでなかなか手をつけられない状態が続いているのは申し訳ないことです。