いったい何者?

先週末のこと、天神の大型書店でまたしても思いがけない光景を目の当たりにすることになり、どうもこの書店はいろいろあるようです。

ここは市内でも最も品揃えの充実した書店で、音楽や美術の関連書籍は4階にあり、音楽に関してもヤマハや島村楽器などを凌ぐ量のさまざまな書籍が揃っています。
1階の喧噪がウソのように芸術関連の書棚周辺はいつ行っても人は少なく、このときも週末でしたが、人影もまばらでほとんどマロニエ君一人のような状態がしばらく続きました。

そこへ長身でスラリとした30代ぐらいの女性が靴音をコツコツいわせながら、決然とした足取りでやってきて、なんの迷いもなくすぐ後ろの書棚の前でしきりにあれこれの本を手に取り始めました。
そこはバレエを中心とするダンス関連の本が並んでいるところです。

すると背後から、ガサゴソパラパラという尋常ならざる音がひっきりなしに伝わってきて、それが静かな売り場ではえらく耳について、なんだか嫌な気配を感じました。

ただ本を見るのに、この異様な空気感はなんなのだろうと思い、ときどきふりかえってそちらを見ると、その女性はいやにツンとした感じが全身に漲っており、なにか目的があるのか、手当たり次第に商品の本を荒っぽく手にとってはパラパラとものすごい勢いでページをめくっています。
それがずっと繰り返され、本を棚に戻す際にも、あまりの勢いで本が書棚にぶつかる音まで発しており、まあ上手く表現できませんが、ともかくけたたましい本の取扱いで、マロニエ君はとくに本を乱雑に扱うというのが体質的に嫌なので、たちまち不愉快になってしまいました。

ま、世の中にはいろんな人がいるのだからと自分を説き伏せて、気にかけないように努めてみますが、すぐ後ろではあるし一向に収まる気配がないので気になって仕方がありません。ひっきりなしにガサゴソ、パラパラ、ドン、バサッという音が背後から聞こえてきます。

さらに信じられないことが起こります。
ピーッ、シャラシャラという音がはじまり、思わず振り返ると、なんと1冊ごとにセロファンに包まれた本を、なんの躊躇もなくひき破って中の本を取り出し、同じ調子でパラパラみては、ポンと激しく棚に戻し、それが何冊か続きました。

さすがにこれはひどい!と思い、あからさまにその女性を非難の目で見てしまいました。
マロニエ君との距離は1mもないのですが、こちらの眼差しなどなんのその、その女性はまったく意に介することなくこの行為を止めようとはしません。
この行為はいくらなんでもと思ったので、言葉で注意しようかと決断を整えようとしていたまさにその瞬間、なんとそこにエプロンをした店員が通りかかり、この女性の様子に不信感をもったようでした。

すぐにセロファン入りの本を何冊も開けていることがわかり、その女性へ静かな調子で「お客様、無断でセロファンを開けられては困るんですが…」と言いましたが、まず、その女性はまったくこれを無視しました。
店員もこれはただ者ではないと直感したようで、再度「これらの本は出版社より指示がありまして、開封されると困るんです…」と言いますが、その店員と女性の顔は30cmぐらいまで近づいていますが、女性はまったく店員の顔を見ようともせず、目線も動かさず、声もまったく発しません。

唯一の変化は、手先の動きだけが完全に止まったことです。
店員はその後も一二度声をかけましたが、まったく返事はないばかりか完全な無視で、ほんのわずかでも店員のほうに顔を向けることはせず、ただならぬ意地の強さが現れているようでした。店員はこの女性との会話は諦めたのか、あたりに散らばったセロファンの屑を掻き集めながら、電話でだれかと連絡を取り始めました。

それを機に女性はまたあれこれの本を見始めましたが、店員から発見される前と違って、あきらかに直前までの勢いは失っていました。それでも「私はまったく動じていない!」という必死のポーズをとりながら、少しずつこの場を離れて行きましたが、それでもしばらくは5mぐらい先でまだ本を見ているフリをしていたので、相当に歪な負けん気があるのでしょう。

ああいう人は、本に限らず、お店の商品に損傷を与えたりということをあちこちでやっているんだろうと思います。ふう…。