マロニエ君はろくに弾けもしないのに楽譜を買うのは嫌いではありません。
楽譜は一度買えば半永久的で、できるだけたくさんあるほうが何かと役立つし、曲を知るための大事な手がかりにもなります。
従って、音楽好きにとっては、楽譜の蔵書は大げさに云うと一種の財産だと思います。
ところが、ここ最近の印象では楽譜はけっこう高額で、以前のようにおいそれと買えるようなものではなくなってきているように感じますし、知人なども皆同意見で「高い」「高すぎる」という声がすぐに返ってきます。
国内出版社のものならまだ大したことはないものの、それでもウィーン原典版などはそれなりで、さらに輸入物となると、プライスを見ただけで買う気が萎えてしまうようなものが少なくありません。
多売が期待できるものではないから、高価になるのは仕方がないという需給バランスの結果だと云われればそれまでですが、ほんらい著作権などが切れた歴史上の作曲家の楽譜であるのに、薄いペラペラの楽譜がン千円などというのがザラで、あんまりな気がします(校訂者の版権などがどうなるのかは知りませんが)。
それでも、プロの演奏家であれば楽譜はいわば商売道具であり、高くても買わざるを得ないでしょうが、アマチュアには絶対必要という理由もなく、そもそもよけいなものを買っているので、値段で断念してしまうこともあるわけです。
そんなときこそ、ネットが強い味方になりそうなものですが、実は楽譜に関してはそれほどでもなく、他の商品のように安くゲットするのは容易ではないようです。アマゾンなどは海外から直接送られるケースもありますが、楽譜はここでもやはり高価で、ヘンレ版などはそれほどお買い得のようにも思えません。
さて、このところシューベルトのヴァイオリンとピアノのための幻想曲D.934の楽譜がほしくなり、ヤマハを覗いてみましたが、お値段以前にその曲そのものがありませんでした。
べつに目的があるでもなし、ただなんとなく欲しかっただけなので注文してまで買うほどの熱意もなく、値段もわからないので、いったんお店を引き上げました。
帰宅して、ものは試しとばかりにアマゾンで検索してみると、なんと送料込み1000円強という望外に安い輸入楽譜を発見!「さすがアマゾン!!」と感激してさっそく注文しました。
10日ほども経ったころでしょうか、ポストにそれらしきものが投下されており、勇んで中を開けてみました。
取り出した瞬間の第一印象が、なんとなく普通の印刷物ではないような気配を感じました。もちろん、いちおう厚紙のカラーの表紙があって、中の製本もきれいですが、醸し出すものが、なんとなく正統なものではない気配を感じたのです。
中を見てみると、白い紙の上の、音符や五線の黒だけがピカピカと妙な光沢を帯びており、これはコピーでは?とまっ先に思いました。
まあ、値段は安いし、安く買えたのだからいいか…と半ば納得しながら、さっそくピアノに向かってポロンポロンと試し弾きしていると、数ページ進んだところで「ええっ!?」という箇所に出くわしました。
なんと、あちらこちらに手書きの指使いがたくさん書き込まれていて、その書き込みまでコピーになっていますから、やはり初めの危惧は当たっていたと思いました。
封筒の発送元をみてみると、日本のアマゾンから発送されていることがわかり、もともと、どこからやってきたものなのかはわかりません。
でも裏表紙には尤もらしくバーコードも付いているし、「Printed in the USA」とあって、いちおうは流通する商品のような気配も窺えないでもない。
とかなんとかいってみても、要はただの楽譜なのでマロニエ君個人はべつに構いませんが、これはやはり本来はまずい商品なのではという疑念も消えたわけではありません。
ふとアマゾンに問い合わせをしてみようかとも思いましたが、それで回収などという流れになったら、それはそれでイヤなので、それもしませんでした。
でも、中には「本書は、著作権があり、許可なしに複製することはできない。 この本のための資料は、大英図書館から提供されている。」というような意味のことが英語で書かれていて、しかるに指使いの書き込みがあるなど、ますますその怪しい感じが強まりました。