これでいいのだ

大型電気店といっても、昔のように純粋に音楽用のオーディオ売り場が堂々と店内に陣取っているわけではないのが当節で、むしろこれがない店舗のほうが多数派のようです。
とりあえずDALIの取り扱いのある店を調べ、聴いてみたいCDをいくつか選び、いざ出発。

ネットでずいぶん読んだのは高い評価がほとんどでしたから、さぁどれ程すばらしい音だろうかと期待を胸に売り場に行くと、危惧していた以上にそこは雑音と喧噪に満ちた環境で、早々に怖じ気づいてしまいました。

こんな中でスピーカーの微妙な特徴とか良し悪しがわかるとも思えなくなりましたが、さりとて他に試す場所があるわけでもありません。

せっかく足を運んだことでもあり、仕方がないのでとりあえず聴いてみるしかないと覚悟を決め、お店の人に来意を告げると、快く持参したCDを鳴らしてくれました。

壁一面には40種ほどの小型スピーカーがぎっしり並んでおり、目指すスピーカーの番号をボタンで押しました。…が、やはり周りの雑音がじゃまをしていまいち判断できません。
お店の人はすぐに立ち去りましたので、「あとはご自由に」ということだと解釈して、ボリュームも好き勝手に調整しながらあれこれのスピーカーを試しました。

たしかにDALIのスピーカーは相対的に悪くないとは思うけれど、スピーカーの判断基準などもわかりませんし、もっぱら自分の好みだけが頼りです。
その好みで云うと、わざわざ何万も出して買う価値があるだろうか…というのが率直な印象でした。(もちろんこの試聴環境の中では繊細さなど、伝わらなかった面も大いにあろうかとは思いますから断定はできませんが。)

もうひとつの理由は、どのスピーカーも通常の箱形スピーカーなので指向性があり、音がこっちめがけて向かってくるわけですが、無指向型に身体が慣れて、それがどうも嫌になってしまっている自分に、ようやくこのとき気がつきました。30分以上聴いたところでひとまずおいとますることに。

福岡には、なんでも全国のオーディオマニアの間で知られた有名店があるようで、なんと自宅から車で5分ほどの距離であること、さらに、そこではこのDALIにこの店独自のカスタマイズをしたスペシャル仕様まで販売していることも、ごく最近知りました。

価格もそれほどでもないので、いよいよとなればここに行ってみようかとも思いつつ、オーディオマニア御用達の店など、門外漢のマロニエ君には敷居が高くて入店するのはどうにも気が進みません。あげくにそれを中国製デジタルアンプとポータブルプレーヤーに繋ぐなんて云おうものならどんなことになるやら…と思うとさらに気が重くなります。

電気店の帰りに、このお店の前を車で通ってみると、見るからに一見さんお断り的な、用のない人は近づくことすら拒絶しているような雰囲気でした。建物の多くは分厚い壁に覆われていて、中の様子はまったく窺い知ることはできません。唯一、細長いガラス戸と灯りがあるのみ。少なくとも気軽に入れる店ではないことはわかりました。

…。
帰宅して、食事をして、自室に戻ってアンプをONにし、電気店であれこれのスピーカーで聴いたフーガの技法を自作のスピーカーを鳴らしてみると、やっぱり悪くないなぁというのが偽らざるところでした。
音質はともかく、やはり円筒形の無指向型スピーカーから出てくる、やさしい自然な音の広がりによる快適さは、極端にいうなら何時間でも聴いていられるもので、一度これを耳が覚えるとなかなか脱することはできないようです。

かくして、しばらくはまたこのスピーカーで音楽を聴いていくことになりそうです。