輸出で流出

海外における日本製ピアノの人気は、日本人が考えるものよりも、ずっと高いもののようです。

日本製ピアノは、日本国内ではべつにどうということもない普通の存在ですが、ひとたび海外に出ると事情は一変。とくにアジアではヤマハやカワイは中古でも高級品としての高いステータスを有して、ダントツの人気だとか。

だからかどうか不明ですが、朝、新聞を見るたびに驚くことは、ピアノ買い取りのためのド派手な広告が数日に1度というハイペースで掲載されていることです。
しかもその大きさたるや、全面広告(新聞の1ページをすべて使った大きさ)で、これほどの巨大広告をこれほど頻繁に繰り返し掲載するというのは、ちょっと異様というか、ただならぬ威力を感じてしまいます。

新聞広告の掲載料は安くはありません。
通常、全面広告はよほどの大企業などが、たまに出すことがある程度で、おいそれと掲載できるようなものではない。
ちなみにネットで広告料を調べてすぐにでてきたのが日経新聞で、全国版の朝刊での全面広告料は、なんと1回2千万を超えています。(ちなみに我が家は日経ではありませんが)

もちろん新聞社によっても、地域によっても、あるいは掲載の回数によっても多少の違いはあるようですが、いずれにしろとてつもない金額であることは間違いありません。

ピアノ買い取りはいうまでもなく、家庭などで弾かれなくなったり、いろいろな事情からピアノを手放す人からピアノを安く買い取って(中にはタダ、もしくは処分料を請求されるケースもある由)、その大半が近隣国などへ輸出するための、いわば商品仕入れです。
それがこれほどの広告料を払ってでも成り立っていくと云うことは、相当大きなビジネスであろうことは察しがつくというものです。

この中古ピアノ輸出業者も大小あるらしく、中には単なるピアノ販売店だったところがピアノ輸出業に転じたというようなケースもあるようです。市場規模が縮小するいっぽうの日本国内で地味な商売をするよりは、よほど利益も上がってやり甲斐があるということなのでしょう。

とくにアジア諸国では、日本のピアノは高級ブランド品であり、中古でも圧倒的な人気があるようです。日本ではもうひとつその実感はありませんが、中国でピアノ店などを覗いた経験でも、そこで見る日本のピアノは特別な存在感があり、その人気のほどをひしひしと感じることができます。

日本で売れないものが他国では超人気となってバンバン売れるとなれば、それっとばかりに中古ピアノの輸出ビジネスに人が群がり、夥しい数の日本製ピアノが海を渡っていったようです。
さすがにピークを過ぎた観もありますが、上記のような新聞広告を数日に一度は目にさせられると、依然としてその流れは止まっていないようにも思います。

この怒濤のような中古ピアノ輸出の煽りから、まるで伐採のし過ぎで森がはげ山になるように、日本ではとくに中古ピアノの流通量がかなり減ってしまっているようです。
当然のように需給バランスで価格は上がり、とりわけグランドはいまや業者間の卸価格が高騰しているという話さえ聞きます。

売れる相手に売るというのはビジネスの厳しい掟であって、そこに感傷を差し挟む余地はないのでしょう。しかし国内の中古ピアノが枯渇して価格変動をおこしてしまうまで海外へ売り尽くすというのは、どことなくやりきれないものを感じます。