ピアノのハンマーには様々な種類があるようですが、実際の違いとはいかなるものなのか…。
プロの技術者でさえ、この点を明確に把握している人は果たしてどれだけおられるのかと思われ、ましてや一般のピアノユーザーがそれを具体的に知る術はないに等しいでしょう。
多くの場合、名の通ったメーカーのものならまずは安心だろう、さらに価格の高いものほど上質だろうという、しょせんは「だろう、だろう」の世界ではないでしょうか。
ヤマハのような大メーカーはフェルトのみを輸入して、木部への巻き加工などは自社で行って自社製ハンマーとするそうですが、他のメーカーはどうなのか…。
カワイは、レギュラーモデルをベースに、海外メーカーの響板やイギリスのロイヤルジョージ社のハンマーを装着したモデルも販売しています。そうなるとレギュラー品はそれよりは劣っているような印象を受けてしまうユーザーも少なくないでしょうが、実際のところどの程度の違いなのか…。
このロイヤルジョージ・ハンマーは、以前ネット上で見かけたところでは、日本のフェルトメーカーがブランドごと傘下に納めて日本で作っているようでもあり、そうなると日本製ということになるのか。そのあたりの詳細は一向に明らかにされず、表向きは英国から輸入された特別なハンマーですよというイメージになっていますが、よくわかりません。
使用する響板によって音が決定的に違うのは当然としても、ハンマーの場合はものによって具体的にどういう変化が起こってくるものか、イメージとしてはわかるようでも、実際はわかっているとは言い難い状況だと個人的には思います。もちろん大きさの違いや巻きの硬軟からくる違いがあるのは当然としても、同サイズで同じような固さのフェルトの場合、あとは音質にどのような影響が出るものなのか、その微妙なところがもう一歩踏み込んだかたちで知りたいものです。
羊毛の質の良し悪しというのが当然ありますが、実際にそれが音としてどの程度の違いとして現れてくるのか、オーディオのアンプやスピーカーのように付け替えて比較するわけにもいかないので、これは容易に判断のつくものではありません。
羊毛といえば、これをハンマーに成形する際、高温で加工するのだそうですが、その高熱によって羊毛の質が落ちるとも云われます。そこで少量生産のメーカーでは、ローヒートプレスという昔ながらの方法で羊毛の繊維を傷めないように作られたハンマーがあるようですが、製造に手間がかかるために量産には向かず高級品とされているようです。
逆に安いハンマーの中には、低質な羊毛をやたらガチガチに固めただけのようなものもあって、それは木材における自然乾燥と人工乾燥、あるいは一枚板と集成材の関係にも通じるものがあるように感じます。
ピアノの音は、ボディや響板などがもたらす複合的なものでしかなく、ハンマーの違いだけを音として独立して知ることはできません。取りつけるピアノとの相性や技術者のセンスもあるでしょう。
とくにハンマーはその品質に加えて、針刺しなどヴォイシングの技術に負うところもあり、それにより結果は一変するでしょうから、どこまでが純粋なハンマーの品質によるものかを判じるのは、少なくとも一般人にとってその手立てはほとんど閉ざされたも同然で、やっぱり「だろう、だろう」になってしまいます。
なんとなくイメージするのは書道に於ける筆です。
一本百円かそこらのものから、何十万もする逸品までありますが、百円の筆でもちゃんと字が書けるという点では、それなりの機能は持っているわけです。
最高と最低の判別は容易でも、もっとも需要が多い中間レベルの優劣判断というのは極めて難しいところでしょう。