初期モデルが最高?

ふとしたきっかけで、さる知人から聞いた意外な話を思い出しました。

それによると、なんとピアノは「初期モデルこそ買い!」なのだそうです。

「初期モデル」というものは、例えば車のような機械ものでは敬遠すべきが常識であって、これを最初に聞いたとき、どういう意味なのか皆目わかりませんでした。

車では、新型にフルチェンジしたモデルなど、見てくれや数々の機構こそ新しさが満載ですが、その裏に製品としての不安定や、初期トラブルを多く抱えており、これを買うのは大枚はたいてメーカーのモルモットになるようなものだという共通認識があります。

メーカーではかなりの走行実験などを繰り返していますが、それでも実際に市場に投入され、多くのユーザーが使ってみることではじめてわかってくるものがたくさんあります。
とりわけ現代の車はコストと効率のせめぎ合いでぎりぎりに作られており、耐久性などもミニマムスペックで登場するとも云われています。

実際に車が販売され、ユーザーが使った結果がデータとして上がってきて、ここから対策が講じられて、必要が認められれば改良され、以降の生産にも反映されます。
必要に応じて、すでに販売された車にも問題箇所は改良パーツに交換されたり、もっと酷い場合にはリコールなどの対象にもなるわけで、自動車マニアでもこだわりの強い人達は、新型発表から最低2年は様子見をするというのがこの世界の常識でした。

そしてモデル末期は乗り味も向上し、最も完成度が高く、モデルによっては初期型と最終モデルでは基本は同じ車でも、別物のように磨かれています。洗練され、併せて信頼性もアップしているというわけで、マニアの中には、わざわざモデルチェンジ直前のモデルを狙い打ちに購入したりする人も少なくありませんでした。

ところが、ピアノでは「初期モデルこそ買い」という、車とは真逆の定理があるのはいかなることなのか。その根拠を聞いてみると、なるほどと納得させられるものでした。

ピアノの基本構造は100年以上前に完成形に達したもので、早い話が車のように新しい設計や機能が次々に投入されるわけでもなく、言葉ではニューモデルなどといっても、機構上の新しさなんてたかがしれています。

それでも、ごくたまにはシリーズ名がちょっと変わったり、プレミアムモデルが追加されたりということはあるわけで、その際メーカーは新シリーズの高評価を獲得する目的で、シリーズ出始めのモデルは、とくに入念に作られているということらしいのです。

はじめに高い評判を得ておくことが、その後の売れ行きに影響するのだそうで、だからピアノの場合は新型が出てしばらくの間のモデルは、格別気合いの入った出来映えなのだとか。

そこでの違いは材料であったり仕上げの手間などであったりするのでしょうが、たしかにピアノが基本の設計から変更になることなんて、そうめったにあることではなく、あとは材質や、製造時・製造後の手間(コスト)のかけ方が大きくものを云うようです。

すなわち発売初期に頑張っておいて、あとは少しずつ手を抜いていくということだろうかと思いますが、たしかにピアノはそれを少しずつやられても、なかなかバレない性質の製品ですから、これは大いに考えられる話だと思いました。

そういえば、デビュー当時より明らかに質が落ちてきたと感じるピアノが思い浮かぶので、やはりそうなのかもしれません。