リストの番組

先週のこと、BSジャパンで『フランツ・リストの栄光と謎 〜なぜ史上最高のピアニストと言われるのか〜』という2時間番組があり、大抵こういうものは見逃してしまうマロニエ君ですが、このときは運良く直前に気付いて録画することができました。

俳優の中村雅俊氏がナビゲーター役としてヨーロッパに赴き、リストの軌跡を追うというもので、この番組は生誕200年を記念した2011年の制作、今回はその再放送だったようです。
中村氏には適度な存在感と節度感があり、訪問先でも物怖じせず自然、よく頑張られたと思いました。

民放でこういう番組をやるのは珍しいこともあり、いちおう最後まで見ましたが、構成がいまひとつというか、ただあちこちに行ってはそこで待ち受ける人の話を軽く聞いて、ところどころで演奏を差し挟むという繰り返しで、期待したほどのものでもありませんでした。

こういうものを作らせると、やっぱりNHKは一枚も二枚もうわ手で、まずは中心となる主題があり、構成や監修が格段にしっかりしていることを痛感します。視る者の興味をうまく誘導する作りになっており、ところどころで深い部分に迫ったりしながら、番組進行がダレたり冗長になったりすることがないのが逆にわかります。
最大の違いは、ひとことで云えばクオリティで、番組制作にかける綿密な事前調査と企画力、さらにはお金と時間のかけ方がまったく違うということが如実に現れてくるようです。

その制作費に関連することで思い出しましたが、出だしからして映像に不可解な細工が施されているのが目につきました。冒頭の映像はピアニストによるラ・カンパネラの演奏の様子でしたが、このときのピアノはベヒシュタインだったものの、鍵盤蓋のロゴは遠目にもぼかしが入れられ、ピアノメーカーがわからないようになっています。

その後は、何度もスタインウェイが出てきましたが、ある一瞬を除いて、それ以外はすべて徹底的にロゴにはぼかしが入れられ、これらピアノメーカーの名は出さないという意志が働いているようでした。今やNHKでさえピアノメーカーのロゴは隠さない時代になっているというのに、このぼかしはちょっと異様でした。

ところが驚いたのはその後で、訪問先の音楽院などにあるヤマハにはぼかしはなく、二台並んでいるとなりのスタインウェイはしっかりぼかしを入れるという念の入れようです。その後、別の場所でもヤマハは堂々とロゴが写し出され、この露骨なまでの「差別」には恐れ入りました。さらには歴史的なピアノとして登場したベーゼンドルファーもぼかしは入りませんでしたが、2007年以降はベーゼンはヤマハの子会社なのでこちらはオッケーということがわかりやすいほどわかります。

エンディングのクレジットなどを見てもヤマハの名が出てくることはありませんでしたが、これはもう明らかにヤマハの意向が働いていることは明々白々です。
さらにいうと、なぜそれほど不自然なまでに他社の名を隠蔽しなくてはいけないのか、その偏狭さには驚くばかりです。

いまさらそんなことをしなくても、リストが存命中にヤマハを弾いたわけでなし、欧米にはスタインウェイはじめいろいろなピアノがあるのは現実なんですから、歴史的名器に混ざってヤマハも数多く見ることができるということのほうが、むしろヤマハの国際性が感じられて、よほど視る人の印象もいいと思うのですが…。

こういうことをあまり過度にやりすぎると、むしろ逆効果にしかならず、却ってこの世界に冠たるメーカーが未成熟な幼児的体質をもっているように見えて残念でした。