二つの自衛権

時事問題の放言番組である『たかじんのそこまで言って委員会』では、折あるごとに旬の話題である集団的自衛権の行使がテーマとして取り上げられます。

ここで政治問題に言及するつもりはありませんが、レギュラーコメンテイターの竹田恒泰氏がおもしろいことを言いました。
彼は議論も煮詰まったころにお笑いでオチをつけるというのがお得意のスタイルのようです。
正確ではありませんが「最近ですねぇ、これぞ集団的自衛権の典型というべき事例が、なんと国内で起こったんですよ」というような前置きをつけて、話をはじめました。

マロニエ君も覚えがありますが、どこだったか野生の熊が出没して人を襲おうとしたところ、連れていた犬が果敢にも熊に挑みかかり、自分も軽傷を負いながら見事に熊を退散させたというニュースがありました。
竹田氏は、その犬の取った行動こそ集団的自衛権の行使であり、これを「集団的自衛犬」と韻を踏んで一同を笑いに引き込みました。
上手いことを言うもんだ感心ししました。

ほぼ同じ頃、NHKのBSで1984年制作の『ゴジラ』が放映されて、さらに同時期、伊福部昭のゴジラの音楽を採り上げた番組もやっていたので、ちょっと録画しておこうという気になり、それらを見てみました。

なんと、すでに30年も前の映画であることに愕然としましたが、たしか有楽町マリオンが竣工したばかりで、それをいきなり壊してしまうゴジラの暴れっぷりと、マリオンの鏡のような外壁にゴジラが映るところが当時話題だったことを思い出しました。

ゴジラ映画では毎度のことですが、この未曾有の事態に時の内閣や科学者が総出で知恵を絞り、いわば一丸となって日本を救おうとする人々の姿が描かれます。
そこには左傾も市民運動もありません。
当然のように自衛隊には出動命令が下り、陸から空からゴジラめがけて雨あられのごとく発砲しまくりですが、悲しいかなゴジラの圧倒的な強靱さにはまるで歯が立ちません。

昔はちっとも思いませんでしたが、近ごろのように集団的自衛権が取り沙汰され、自衛隊の軍事活動に対する憲法上のくびきがあると、これほど抵抗も躊躇もなく自衛隊が堂々と表に出てきて、人々を守るために果敢に行動し、あらゆる兵器を使用する姿が、なんだか奇異なものに写ってしまいます。

そんなことを思いながら画面を見ていると、俄に納得できたのです。
「ああ、これが個別的自衛権の行使なのか!」…と。
そう納得すると、急に理由のよくわからない可笑しさが込み上げてきて仕方がありませんでした。


さて、なんとはなしに期待していた伊福部昭のあの有名な音楽は、残念なことにこの映画で聴くことはできませんでした。
あの、ジャッジャッジャッジャッというストラヴィンスキー風の原始的なリズムの上に、ラヴェルのピアノ協奏曲の第三楽章を思わせる無機質な音型が重なって、我々のゴジラのイメージの中では視聴一体のものになっています。
恐怖と楽しさがないまぜになった、まるでゴジラの凹凸のある皮膚そのものみたいな音楽。これのないゴジラというのは、どうにも収まりが悪いような気がしてしまいました。