ハズレの機械

マロニエ君は体質的な事情もあって、ピアノに勝るとも劣らないほど湿度が苦手です。

当然ながら梅雨は人一倍苦手で、慣れるということがありません。今年は全国的にも大雨の被害が続出、それにともなって猛烈な湿度に見舞われました。この梅雨という名の長いトンネルをくぐり抜けるだけでも毎年の大仕事となっています。

ようやく梅雨明け宣言が出されたと思ったら、今度は入れ替わりにサウナのような猛暑となり、厳しい自然の試練に翻弄されるのは大変です。

そんなマロニエ君は、かなり重度のエアコン依存症であることはずいぶん前に書きましたが、もはや快適器具という枠をはるか飛び越えて、気持ちの上では生命維持装置のような趣です。

そんなに大切なエアコンですが、自室のエアコンは使い始めて10年ほどになり、信頼性バツグンの筈の日本の有名メーカーの製品であるのに、これが完全にハズレの機械でした。初めの2〜3年こそ問題なく使ったものの、その後は故障が頻発。水漏れしたり、冷房能力が低下したりの繰り返しで、そのつど修理依頼となり、メーカーの修理担当者と顔なじみになるほどでした。

修理代も馬鹿にならず、一度などはコンデンサーだかなんだか名前は忘れましたが、主要な部分の全交換などという事態にまで発展するなど、このエアコンに関する限り、高い信頼性を誇る日本製品とはほど遠いもので、いつも不安でだましだまし使うという状況が続いていました。

そしてついに恐れていたことが、最も困るタイミングで起こりました。
他の部屋の温度に較べて、いやに自室だけどろんとした効き方をしているなあと思ったら、その翌日には明らかに冷房力が低下していることが判明。
しかしこの日は事情があってどうしても動きが取れず、やむを得ずそのまま我慢しましたが、次の日にはさらに状況は悪化して、廊下との温度差もごく僅かとなりました。

とっさに不安を覚えたのは、梅雨明け早々の連日34〜5℃という猛暑の中、エアコン業者はどこも終日出払っているだろうということ。
以前我が家全体のエアコン工事をしてくれた業者に連絡しますが、予想通り、この猛暑のせいで電話に出る暇もないほど忙しいようです。どうにか電話は繋ったものの、案の定予約はびっしり、まさに東奔西走の毎日で、お店などは閉店後の作業開始となるのだそうで、寝る暇もない極限的な状態が続いている由で、今日明日はどうにもならないようです。

仕方なく、メーカーに電話をして出張修理の予約だけはとりつけたものの、あぁ、また場当たり的な対処をされたところで先が見えているし、それで今年の夏を安定的に乗りきれるかとなると、甚だ不安です。もう10年もこのエアコンを我慢して使ったのだから、もういやだと思い、この際買い換えることを決断しました。

善は急げとばかりに、あちこち電気店などに電話しましたが、工事に来てくれるのは早くても5日から一週間かかるらしく、それではとてもこっちの身体がもちません。
これは大変なことになったと、こんなときこそネットを駆使して業者を検索しまくり、電話をしまくりました。どこも似たような状況でしたが、一件だけ「明日の午後なら空きがありますから行けます」という真っ暗闇に一条の光を見るような声を聞きました。

ところが「機械はお客さんのほうで準備されているんですよね」と普通にいわれ、「えっ?いえいえ、してませんが」というと、なんでも最近はネット通販で機械を安く購入し、取り付けだけを依頼してくる方がほとんどだというのには驚きました。
機械もそちらでお願いしたいと云うと、それはすんなり手配してくれることになりました。
その翌日、マロニエ君の自室の壁に10年間へばりついていた薄汚い室内機はついに役を解かれて下に降ろされ、代わりに真っ白な新しいエアコンが取りつけられました。寸法は僅かに小さくなっていますが、冷房能力はひとまわり強力だそうで、そのピカピカした感じがなんとも頼もしげです。

それにしても、本体価格、古い機械の取り外し、新規取り付け、外した機械の処分やリサイクル費用などを含めても、望外の安さであったことは驚きでした。こんな値段なら、あんなに修理を重ねてきたこの数年間はなんだったのだろうと、その間の不愉快と手間暇と出費を考えるとドッと疲れがこみ上げますが、ともかく今は新しいエアコンがサワサワと冷風を送ってくれるので救われます。