楽器と天候

今年の夏の異常気象といったらありませんね。
梅雨明けというのも言葉の上だけで、実際は夏全体が熱帯地域の雨期さながらです。これほど鬱陶しい天候に覆われたことは、過去にもちょっとなかったように思います。

通常なら梅雨が明けると、おおむね強い陽射しによる夏日が続き、その暑さにぐったりするというのが例年のパターンですが、今年は晴れ間そのものが無いに等しい状態です。

数日に一度、本来の夏らしい陽射しがあると、思わずなつかしいものを見るようでそれだけでパッと気分も明るくなりますが、それも1〜2時間もすると怪しくなり、ウソのようにあたりは暗くなってザーッと雨が容赦なく降り始める。

考えてみれば今年の夏、一日でも安定して晴れた日があったかどうか…たぶんなかったように思います。まだ夏が終わったわけではないけれど、新聞やネットの週間予報はいつ見ても曇り/雨マークがズラリと並んでいて、これを見るだけでウンザリします。

マロニエ君はもともと夏は好きなほうではないし、これといって野外活動をするわけではありませんが、それでもお天気というものが日々の生活の中でいかに大きい影響があるかということを、今年の夏ほど切実に感じたことはなかったように思います。

広島をはじめ、痛ましい被害が出たところもあるとおり、地鳴りのするような猛烈な雨が夜中じゅう降り続いて、かなり恐怖を感じたことも幾度かありました。

こんな状況ですから除湿器にも休む間がありません。
我がディアパソンは、予想以上に湿度に左右されやすいピアノであることもこの夏しみじみとわかりました。
エアコン+除湿器でガードしていても、終日激しい雨が降り続くとさすがに調律も乱れぎみになり、焦点の定まらない鳴り方をします。あるときなど、ちょっとした油断から半日ほど除湿器の水を捨て忘れて止まっていたことがありましたが、そのときは変なうねりが出てくるほど大きく乱れてしまいました。

あわてて除湿器のスイッチを入れたことはいうまでもありませんが、驚いたのはその後で、一夜明けて湿度も元に戻ることでピアノの狂いもかなりのところまで回復しており、これにはちょっと感動しました。このような変化と復元は、理屈ではわかっていても、自分でその一部始終を体験してみるとやそれなりの感慨があるものです。

外部からホールなどに運び込んだピアノが開梱されると、急激な温度差などでせっかく調整されていたピアノが狂ってしまい、数時間たつと自然に元に戻るという話をよく耳にします。そのとき技術者は何もしないで「待つこと」が必要のようで、ピアノがステージの環境に馴染まないことには何をしても無駄だというのが実感としてわかります。

こういう環境の変化に楽器がプラスにもマイナスにも反応して、調子を崩したり復調したりというようなことに接すると、これも生の楽器ならではの魅力だと思います。

スイッチさえ入れれば季節も調律も関係ない電子ピアノは確かに便利でしょうが、このように維持管理に一定の手間暇がかかるところも楽器と付き合う上での面白さではないかと思います。

天候不順で楽器が調子を崩すのはむろん困りますが、そうかといって、もし降っても照っても、夏でも冬でも、温度にも湿度にも、なんら影響を受けないピアノがあるとしたら、それはそれでつまらないだろうと思います。