医者もどき

最近は大病院はむろんのこと、開業医やクリニックでも、その傍には必ずといっていいほど薬局が付帯していて、病院から出された処方箋を手にここに立ち寄り、そこで薬を受け取って終わりというパターンが定着しています。

院内処方でむやみに待たされるより、これはこれでシステムとしても簡潔でいいとは思うのですが、この手の薬局でときどき疑問に感じることがあります。

薬の受け渡しの際に、薬を取り扱う者としての責務上必要というところで、あれこれと立ち入った質問をしてくる人がときどきいて、そこに漂うニュアンスには薬剤師の領域とは似て非なる言動が見受けられることが時折あるのです。

どうみても薬剤師の立場を踏み越えたような質問をしたり、中には余裕たっぷりに処方箋を見ながら「えーっと、今回はどうされましたかぁ?」などと、ほとんど医師のような物言いで、内心思わずムッとしてしまいます。
そんなことは、直前に診察室で医師と充分しゃべったことで、その結果として出された処方箋なのですから、そこに疑問があるのなら、処方箋を書いた医師に連絡すればいいことでしょう。

年配の方などには、昔の「お医者さんは偉い人」というイメージを引きずっておられる方がときどきおられ、看護士さんから受付の事務員、果ては薬局に至るまで、ひたすら低姿勢で恐縮したような態度に終始する方もいらっしゃいます。

こういう相手と見るや、いよいよこの手の薬剤師は水を得た魚のように指導的な物言いを発揮して、ひどく勿体ぶった、自分が何かの権威者で上意下達のごとき振る舞いになるのは、傍目にも気持ちのいいものではありません。

たしかに薬剤師は薬のプロではあるでしょう。
薬事上のさまざまな知識が求められ、薬を渡す際に効能や飲み方、注意点など必要な説明を添えるというようなルールもあるでしょう。だからといって、それに乗じて医者もどきの言動に及んでいいということにはなりません。

真面目に仕事をしていますよという、いわば安全な建前の中で、それをわずかに踏み越えて、個人的な愉快を得ているのは、すぐに伝わってきて不快なものを感じます。あたりまえのことですが、薬剤師は医師ではないのですから、そこには厳然と守るべき一線があるはずです。

目に余る場合は、「たった今、病院で先生にお話ししたことを、もう一度ここでお話しするのですか?」と問い質すと、もともと忸怩たるものがあるのか「あっ、いえいえ…」と、いささか上気した感じですぐに質問を取り下げるあたりは、いかにそれが不必要であるかの証明のような気がします。

いちおう白衣は着ているし、医療機関という環境の中で一般人を相手に仕事をしていると、だんだん勘違いしてくるものだろうかと不思議です。

もちろん、こういう人は少数派で、大半は普通です。
しかし、この手合いがときどきいるのも現実で、マロニエ君は自分が、そんな他者の甚だ個人的な快楽の素材にされてはなるものかと、つい警戒してしまいます。