振り返えれば

マロニエ君は自分なりの考えもあってスマホは持たない主義なので、いまだに通称ガラケーを使っていますが、スマホの進化はどこまで行くのか、そのうち腕時計型なんてものまで出てくるらしく、聞いただけで疲れます。

スマホを敬遠する理由はひとつではありませんが、実用の点からいうと、必要時にパソコンがほぼいつでも使える環境であることがあるように自分では思います。
裏を返せば、スマホは電話機能つきの携帯パソコンだと思っているわけで、なにかとネットのごやっかいにはなっているものの、外出先でまでこれを「やりたくない」という自分なりの線引きがあるわけです。

それと個人的なセンスとして、人がスマホを操作しているあの姿がどしても好きになれず、自分がそのかたちになりたくないという、つまらぬこだわりも多少あるでしょう。さらには過日のiPhone6発売日の騒動などを見るにつけ、完全にそのエリア外にいる自分がむしろ幸せなような気がしています。

それにしても、公衆電話が当たり前だった時代を思い出すと、この分野の進歩は恐ろしいばかりだったことをいまさらながら思わずにはいられません。

むかし携帯電話が登場した頃は、大げさな発信器のようなものに大きな受話器がちょこんとくっついた、そのいかにも重そうな機械一式をショルダーがけにして、当時の先端ビジネスマンやある種のお金持ちなどが、得意満面でこれを持ち歩く姿が記憶に残っています。

まるで昔のスパイ映画に出てくる爆破装置のように大げさなものでしたが、当時これを持っている人は、その重い装置の持ち運びも、その圧倒的優越感の前では、まったく苦にならなかったことでしょう。

そうこうするうちに自動車電話が登場、走行中、車の中で電話がかけられるというのは007のボンドカーなどでしか見たことのないもので、その利便性もさることながら、多くの人の虚栄心にも一斉に火がついたようでした。
またたく間に多くの高級車のリアのトランクリッドには、電話用の甚だ不恰好なアンテナが取りつけられていきました。しかし、人間の認識とはふしぎなもので、このヘンテコなアンテナが高価な自動車電話をつけている証となると、そのダミー(電話はないのに見せかけのアンテナだけをつける)製品まで売り出される始末で、街中にこのアンテナをつけた車が溢れかえりました。

中でも中型以上のベンツやBMWなどは、これがあるのが当たり前といった状況だったのは思う出すだけでも笑ってしまいます。

やがて携帯電話も日進月歩で小型化され、わずか数年の間に爆破装置サイズから、わずか数分の1の、片手で持てるサイズにまで縮小されます。
初期費用も格段に安くなり、マロニエ君がはじめて携帯電話を持つようになったのもこの時期でした。

しかし縮小されたとはいっても、普通のようかんぐらいの大きさと重さはあり、まだとてもポケットに入れるような代物ではありませんでした。
音質は悪く、通話料は高く、不通エリアなんてそこら中で、家の中でも、窓辺に行かないと使い物にならないといった状況でしたが、それでも、線のない電話があって、それを自分用として持ち歩くことができるというのは大いに感激したものです。

これがたかだか20数年前の話ですが、今から思えばほのぼのした時代でした。