CD往来

遠方の音楽好きの知人と電話をしているとき、ピアノの調律に話が及び、調律師によって実にいろいろなやり方や個性があることが話題になりました。

とりわけ一流どころになると、調律は明らかに芸術性が問われる高尚な領域に突入します。ひたすら職人技に終始するか、はたまたそこから芸術の領域に足を一歩踏み入れるか、ここが分かれ目です。

しかしこればかりは、どんなに言葉を労してもその音を伝えることはできません。
『百聞は一見にしかず』のごとく、聴覚もこの点は同様です。
そこで、オクタビアレコードからリリースされているCDで、我が主治医殿がピアノの調律を担当しているものをコピーして送ることになりました。だって聴いてもらうしかないのですから。

CDのコピーというものはあまり大っぴらに云っていいことかどうかはわかりませんが、パソコンなどはそれができる機能を有しており、べつに販売するわけでもなく、とりあえず「個人が楽しむ」という制限付きならば許されていることだと解釈しています。

マロニエ君は車の中の音楽はすべてコピーCDで聴いているので、ときどき車用を作るのですが、考えてみると、このところずいぶん長いことこれをやっておらず、これを機に久しぶりにCD作りに精を出しました。

どうせ送るのなら、ほかにも話の種に聴いて欲しいものもあり、思いつくままにコピー作業をやったのですが、これが案外楽しかったのは自分でも妙な発見でした。
車用を兼ねて2枚ずつ作るというのも合理的であるし、なんだか貴重な音楽CDを自分の手で作っているような子供じみた面白さもあって、数日というもの、夜はすっかりこれにはまってしまいました。

ある程度の枚数を送ると、なんと先方でも同様のことをしてくださり、ほどなく分厚いCDの包みが届きました。中を開けると予想を遥かに上回る枚数のCDが出てきてびっくり!
相手の方はヴァイオリン出身の方なので、ヴァイオリンのCDを相当お持ちで、そこには自分ではまず買わなかったであろうCDがズラリ! 一通り聴くだけでも大変な量です。

その「自分では買わなかったであろうCD」というのがポイントで、自分だけでは趣味趣向がどうしても偏ってしまって限界があります。マロニエ君ならどうしてもピアノが優先になるし、その取捨選択も、知らず知らずのうちに同じような尺度でばかり選んでしまうようです。

その点では、他者が他者の興味や価値観によって手に入れたCDというものは実におもしろいもので、ドキドキの連続、予想外の音楽や演奏に出会える恰好のチャンスとなりました。
はじめて聴くことができた演奏家や作曲家もあって、やはり所詮一人で動いていては限界があることを痛切に感じます。

マロニエ君は、趣味は基本的に、孤独でもじゅうぶん楽しんでいけるだけのものでなくてはならないと思ってます。たしかに同好の仲間がいるのは楽しいけれど、趣味という名のもと、価値観の違う者同士が無理して肩寄せ合って、口にはできないストレスを感じながら妥協的な時間を過ごすのは本末転倒で、好きではありません。

車などは同好の士が集まるのはとても楽しいのですが、こと音楽とかピアノになると、何故か知らないけれど、何かが違うというか、最も大切な核となる部分が悲しいまでに噛み合わないことがあまりに多いというのが偽らざるところでしょうか…。

むろん中にはそうではない方も僅かにおられますが、これは本当に一握りの方々です。
そういう方との交流や情報交換はやはり貴重ですし、それによって自分が大きな恩恵に浴していることは確かです。
とくにヴァイオリンのCDに関しては、おかげでグッと視界が広がったような気がしています。