続・CD往来

前回書いた通り「CD往来」のおかげで、聴いたことのなかったヴァイオリンのCDを一気に楽しむことができました。

2度にわたって送っていただいたCDは実に21枚!にも達していますが、とりわけ集中しているのはパガニーニの24のカプリスとイザイのソナタ全6曲で、いずれも無伴奏の作品です。
これらが各6枚ずつで12枚、さらにバッハの無伴奏ソナタとパルティータが2枚、ロッラという作曲家のヴァイオリンとヴィオラの二重奏など、無伴奏のアルバムが多くを占めました。

パガニーニのカプリスは昔パールマンのレコードをよく聴きましたが、その後はそれほど熱心に探してはいなかったこともあり、五嶋みどりなど数枚がある程度でした。
そこへ今回一気に6人もの超一流奏者によるカプリスを手にすることとなり、急なことで耳が驚いているようです。

昔の印象と違ったのは、この曲集はやはり技巧ありきの作品で、演奏はどれも卓越したものであるのは云うに及びませんが、作品としては意外に飽きてくるという事でした。

その点では、イザイのソナタにはそれがありません。
どれもが濃密な人間ドラマのようで、聴くたびにわくわくさせられるし、演奏者によってもその台詞まわしやカメラアングル、演出がみな異なり楽しめました。
とはいっても、無伴奏ばかりを延々と聴いていると、ときどき疲れてきて違うものが聴きたくなりますが、やはりおもしろいので、一息つくとまたプレイヤーに入れてしまいます。

さらに飽きさせないのはやはりバッハです。ポッジャーというバロックヴァイオリンの名手がはっとするような清新な演奏を繰り広げるのにはかなり驚きました。
昔は、フィリップスから出ているクレーメルのこれが一番だと思っていたし、最近になってイザベル・ファウストの鮮烈がこれを抜き去ったように感じていました。そこへこのポッジャーというファウストに勝るとも劣らぬ名演が加わり、充実のラインナップと相成りました。

これまでにもイザイやバッハは買ったはいいが大失敗で、演奏者の名前すら覚えていないというのもいくつかあり、その点ではヴァイオリンに通じた方が選ばれたCDはまさに精鋭揃いでした。

ヴァイオリンの音色もさまざまですが、これに関してはマロニエ君はどうこういえるほどよくはわかりません。ただ好きな音、それほどでもない音があるのはピアノと同様ですが、それが演奏によるものか、楽器によるものかなどはもうひとつ判然としないというのが正直なところです。

ちなみに最近ここに書いた樫本大進の演奏でも、チャイコフスキーでは終始音がつぶれ気味で美しさがなかったのに、アンコールのバッハでは違う楽器のような美しさを感じたのはちょっとした驚きでした。やはり楽器の美しさを楽しむには無伴奏は最適ということなのかもしれません。

ひとつ発見したのは、無伴奏ヴァイオリンのCDは、どれも録音が素晴らしいという点です。リアリティがあって立体感があって、しかも全体像も掴みやすいし、楽器から出ている直接の音と残響の区別もつけやすいし、まるで楽器が目の前にあり、演奏者の息づかいに直接接しているようで生々しい高揚感があります。
こんな面白さや魅力は、ピアノの録音ではなかなか望めないことだと思いました。

考えてみれば、ピアノという楽器は、音域もダイナミックレンジも異様に広く、それをひとつの録音作品として遠近をまとめ上げるのは並大抵ではないのだろうと思われます。
むかしオーディオマニアだった友人が尤もらしく言っていたところでは、録音技術者はピアノのソロを満足に録れるようになったら一流なのだそうで、それが今ごろになって納得させられるようです。

ピアノの場合は、録音の巧拙が残酷なまでに明らかで、それは定評のあるレーベルに於いても、アルバムごとに音質というか、要するに録音ポリシーみたいなものが常に不安定なことでも察することができるようです。