我が家のカワイはGS-50というモデルで、カワイの系譜として見ればことさら特殊でもないけれども、いわゆる保守本流でもないという、いわば過渡期的なシリーズのようです。
中途半端といえばそれも否定できません。
製造年は1985年あたりで、すでに約30歳ですが、この時期のカワイグランドはKGシリーズ全盛期で、そこへ別流派として発生したモデルというべきでしょうか。
聞くところでは、ヤマハがGシリーズと同時並行的にCシリーズを発売し、より華やかな音色のピアノが支持されたことで、同じ市場を狙ってカワイが対抗機種として発売したものだとか。
GSシリーズはスタインウェイを意識してか、弦のテンションを低めに設定するなど、さまざまな新基軸を盛り込んだようですが、それがどういうわけかアメリカで高い評価を受けたといいます。
GSシリーズは30を皮切りに次第にサイズを拡大し、ついにはGS-100というフルサイズのコンサートグランドまで作られます。これはEX登場までのカワイのフラッグシップでしたし、EX登場後も長いこと、GS-100はちょっとお安いコンサートグランドという、よくわからない立ち位置でカタログに載っていました。
実際にGS-50を長年使ってみて、そんな逸話がふさわしいほどのピアノだとは…正直思っていませんが、それでもカワイの沈んだような音色がそれほど顕著ではないし、かといってキンキンうるさいタイプの音でもないのがこのシリーズの特徴かもしれません。特筆すべきは、キーがカワイとしては例外的に軽いなど、いわゆる「これぞカワイ!」という基準からは、あちこち外れたところのあるピアノだとは思います。
積極的にこれを選ぶ理由もないけれど、意に添わないヘンなピアノよりは、よほど良心的といったところでしょうか。このGSシリーズが後のCAシリーズに受け継がれます。
すっかり前置きが長くなりましたが、わけあってこのピアノを一度磨いてもらうことになり、ピアノの塗装の専門業者の方に来ていただきました。
下見のときにわかったことですが、このピアノはなんと今はほとんど使われることのないラッカー塗装で、いわれてみるとなるほどと思う音の響きがあることに気がつきました。
もともと大したピアノではないので、たかが知れているものの、ラッカーはそれなりに音が柔らかくふわっと響くと思います。
その点、ポリエステル塗装はやはり響きが固い印象です。固いのみならず、むしろボディのもっている響きというか、全身が振動しようとするのを、ポリエステルで押さえ込んでしまっているという印象です。
近年はスタインウェイでさえポリエステル塗装が当たり前のようになっていますが、その理由はまさにコストと強靱さのようです。塗りの工程も簡単かつ塗装面が強くておまけに製品的に美しいので、多少の響きを犠牲にしてでもこちらが選ばれるのは現代の価値観からすれば当然なのでしょう。
全般的な材質の低下などと併せて、要はこういう要素が幾重にも積み重なることによって、現代のピアノのあの感動からほど遠い音ができているのだということが納得できるようです。
さて、そのGS-50ですが一時間ほどの手磨きでしたが、かなりピカピカになって気分も新になりました。本格的な磨きになれば機械を使っての大々的な作業になるようです。
ピアノの木工や塗装を得意とする職人さんとはじめてお話しできましたが、なんとなれば黒から好みの木目ピアノにもリニューアルできるなど、なかなかおもしろそうな世界のようで、聞いていてウズウズしてしまいました。