あけましておめでとうございます。
このブログも5年目を迎えました。
懲りもせず、よくもくだらないことを書き続けたものですが、もうしばらくは続けるつもりですので、おつきあい願えればこの上もない幸いです。
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暮れの30日の夜は、ある調律師の方がやっておられる木工塗装の工房に呼んでいただいたので、滅多にない機会でもあり、ちょっとお邪魔させていただきました。
ピアノの技術者や店舗の中には自前の工房があり、そこでピアノの修理やメンテを手がけられる方がいらっしゃいますが、オーバーホールやクリーニングともなると、作業工程の中には塗装や磨きも外せない項目として含まれます。
しかし、塗装にまつわる技術というものは、ピアノ技術者にとってはいわばジャンル外の作業であり、こちらは大抵の場合アマチュアレベルに留まるのが現実でしょう。
全体としては、せっかくの丹誠こめた作業であるにもかかわらず、塗装に難ありでは最上級の仕上がりとは言えないピアノとなり、勢い商品価値は下がります。そこではじめからこの点はきっぱりあきらめて、塗装の専門業者へ任されるスタイルも少なくないようです。
オーバーホールなどでは、鍵盤とアクションを抜き取り、弦もフレームも外した、まさに木のボディだけを塗装の専門業者へ送るというスタイルの方もおられ、これは「餅は餅屋」の言葉の通りの各種分業で合理的ですが、逆にいえば一人あるいは一カ所で全部をこなすのは至難の業ということでもあるのでしょう。
当たり前ですが、木工・塗装というのは独立したジャンルであり、いわゆるピアノの修理技術の延長線上にはない別の技術であって、むしろ家具製作などの領域だといえるかもしれません。
少し話を聞いただけでもよほど奥の深い世界ということは察せられ、日々の研究も怠りないようで、いずれの道も究めるのは容易なことではありません。それだけに興味も尽きない分野だとも思いました。
プロの塗装作業のできる調律師さんというのは、いわば二足のわらじを履くようなもので希有な存在であるわけです。
この方は木工職人として、そちらの方面の全国大会にも作品を応募される常連の由ですが、その中でピアノ技術者はこの方だけというのですから驚きです。
その工房はピアノ運送会社の倉庫の一隅に塗装エリアを設けられたもので、倉庫内にはたくさんのピアノが並んでいましたが、やはりグランドは少なく、大半はアップライトでした。
マロニエ君はつい習慣的にグランドかアップライトかという目で見てしまいますが、現実はそんな甘いものではなく、最近は「ピアノ」といっても販売全体の実に8割までもが電子ピアノなのだそうで、アコースティックピアノは需要のわずか2割にまで落ち込んでいるとのことで、わっかてはいても衝撃でした。
昔のように無邪気にピアノをかき鳴らせる時代でないことは確かで、近隣への音の配慮や複雑な住宅事情など、複合的な理由からそうなっているのでしょうが、大筋では、やはり世の中が文化などの実用から外れたものに対する精神的な優先順位が低い時代になってきているというのは間違いないように感じてしまいます。
というわけで、今年はどんな年になるのやらわかりませんが、せめて大好きな音楽だけはなにがあろうと聴き続けていきたいところです。