響板のホコリ

以前、洗車が我が健康法というようなことを書きましたが、そこに楽しみを見出すには、掃除する対象が自分の趣味性のあるものだからということも関係があるのかもしれないと思います。

しかし、そうだとすれば、好きなピアノも磨きの対象になってもおかしくはないようなものですが、なぜかこちらはまったくそうはなりません。

こう書くとまるでピアノの掃除はせずに、いつも汚れた状態のようですが、決してそんなことはなく、少なくとも人並みにはきれいにしている「つもり」です。それでも洗車のようなハイレベルを目指してピアノ掃除をやったことはありません。

これは自分でも不思議で、その理由を考えてみたところ、いくつか挙げられるようです。

まず大きいのは、当たり前ですがピアノは常に屋内に置かれるものなので、車のように「汚れる」ということがあまりありません。せいぜい水平面にうっすら溜まったホコリを取り除く程度で事足ります。
それにマロニエ君はよくあるピアノ用シリコンみたいなケミカル品はできるだけ使いたくないので、これぞというものを必要最小限しか使いませんし、普段は毛羽たきか、ごくたまに柔らかい布を固く絞って丁寧に水拭きする程度です。

また鍵盤も、毎日専用のクリーナー液をつけて拭く人もいるそうですが、入れ替わりにレッスンをやっているようなピアノでもないのでそれもしませんし、そもそもボディカバーもしない、鍵盤用の意味不明な細長いフェルトのカバーなども、むろんありません。

これがマロニエ君のピアノに対するスタイルで、それでいいと自分が思っているわけです。

もう一つ、マロニエ君にピアノクリーニングから遠のかせる原因は、グランド内部の構造も大きく関係しているのです。
グランドピアノをお持ちの方ならおわかりだと思いますが、最もホコリが溜まりやすく、それなのに掃除の手立てがないのが響板です。響板は直に手がとどくのは低音側の弦とリムのわずかな隙間ぐらいなもので、大半は無数に張られた弦に遮られてほとんど掃除ができません。
響板のように広い部分にホコリがたまっているのに、それをとり除くことができないのは甚だ面白くありませんし、外側だけキラキラ磨きたてたところで意味がない…というわけで、いわば興が削がれるのです。
よってピアノの掃除にはむかしから力が入らないのかもしれません。

調べると、響板のホコリ取り用具が全く無いわけではないようです。
細い棒の先端にフェルトみたいなものが貼られ、その中央に針金のような細い取っ手が直角にけられていて、それを弦の間から差し込んで動かすことでホコリを除去するというもののようです。しかし、こういう道具類はよほど需要がないのか、技術者相手の業者がひっそりと取り扱っているようです。
ところが、この手の店はネットでも排他的で、一般のピアノユーザーが簡単に手に入れたらいけないということなのか何なのか、技術者だけがコミットできるようになっているようで、値段もなにもわからないようになっています。
一見さんお断りならぬ素人さんお断りサイトで、なにやらもったいぶった印象で、これだけで面倒臭くなります。

あれこれのパーツ(たとえばハンマーやシャンクなど)も価格表示は一切されず、しちゃまずいほど安いのかとも思いますが、この世界は相身互いなのか、そうやっていろんなことが秘密にされているようなので、そこに敢えて部外者として分け入って行こうとも思いません。

それに昔の並行弦のピアノならともかく、現代のグランドは交差弦なので、中音域(響板の中央部分)はどっちみその器具も使えないか、甚だ使いづらいということは目に見えているので、やはり掃除の意欲が湧いてこないのです。

だったら自作でもして、低音弦側から差し込んで、それを左右に動かすことで一挙にホコリが取れるような用具を考案してみようかと思っていますが、これも、何年も前から思っているばかりで、実行には至っていません。

いっそピアノ響板用小型ルンバでもあればいいのですが。