不幸中の幸い

広島空港で起こったアシアナ航空の事故は、その全貌が明らかになるにつれて驚きも増してくるようです。

天候その他の理由から超低空で最終進入し、滑走路脇の無線設備に接触しながら着陸したにもかかわらず、ひとりの死者も出さず、全員が生還しています。

通常、着陸したあとのオーバーランなどであれば、犠牲者もなく機体の損傷のみということはないことではありません。
しかし、いかに着陸進入中のこととは言え、まだ空中を飛んでいる段階で何かに機体が接触し、それが原因で事故が発生し、にもかかわらずひとりの犠牲者も出ないで済んだということは、これこそまさに僥倖といえるのではないかと、この点でとくに感心してしまいました。

事故以降の報道を見ていますと、滑走路脇の無線設備はアシアナ機の接触によって、かなり激しく損傷しているし、はるか遠くの草地で向きを変えながら停止した機体の左エンジン付近には、この無線設備のものと思われる何本ものオレンジ色の棒状のものが突き刺さっており、衝撃の凄まじさが偲ばれます。

また、マロニエ君はこのニュースを聞いたとき、滑走路のはるか手前に設置された無線設備に激突したということは、それがなければ滑走路手前の地面に突っ込んでいたのでは?と思ったものですが、翌日報道ヘリから撮影された周辺の映像によれば、アシアナ機はこの設備に接触した直後に、滑走路手前の草地のようなところにまず着地しており、その車輪による爪痕がはっきりと残っていました。

つまり無線設備に激突した直後にそのまま滑走路手前の地面に着地し、草地から滑走路へ乗り上げ、いったんは滑走路を西に進行しますが、再び左に大きく逸れて滑走路を逸脱、草地を爆走したあげく機体が停止した位置というのは、あとわずかで空港のフェンスを突き破り外に飛び出すまさに直前の位置でした。

詳しい事故原因がなにかはわかりませんが、状況から察するに、少なくとも事故発生以後だけの状況を見ると、幸運の連続だったのではないだろうかと思わずにはいられません。
通常なら、飛行中の旅客機が地上施設に接触などしようものなら、そのまま無事に着陸なんてできるわけもなく、凄まじいスピードと相俟ってバランスを崩し、でんぐり返ったり、機体が折れたり、火災が発生したりで、これまでに私達が目にした数多くの航空機事故のような事態におちいる可能性が高かっただろうと思います。

事故といえば脈絡もなく思い出しましたが、つい先日の深夜、所用で郊外へ出かけた際、帰り道をドライブがてら四王寺という小さな山を迂回するひと気のないルートがあるので、そちらを走っていたときのことでした。

カーブのむこうでヘッドライトの先にいきなり照らし出されたのは、ひとりの男性の姿で、手には懐中電灯をもち、道路脇に停車した車の脇に立って、しきりに走ってくる車の誘導のようなことをやっています。
何事かと思いつつ、あたりにはちょっと異様な気配が立ち込めて、事故らしきものが発生したらしいことがわかりました。引き返すこともできない状況なので、その脇を通過するしかなくドキドキしながら徐行して近づくと、なんとその車の前には、ある程度の大きさのある動物らしきものがぐったりと横たわっていました。

見なけりゃいいのに見てしまうマロニエ君の困った性格で、こわごわと目を右にやると、茶色の体毛に覆われたイノシシが車に轢かれて血まみれで絶命していました。
人気のない山裾の道で、夜でもあり、車も相当のスピードを出していたところへ運悪くイノシシが突っ込んできたのか、かなり凄惨な状況で、対向車線はかなりの距離(といっても20メートルぐらいですが)にわたって、血痕と肉片が飛び散っているのが夜目にもわかり、相手は人ではなかったとはいえ、交通事故とはかくも悲惨なものかということをあらためて思い知らされて、心臓がバクバクしてしばらくおさまりませんでした。

それと結びつけるわけではないですが、アシアナ航空の事故は、一歩間違えばそんなイノシシの事故どころではない、ケタ違いの大惨事になる可能性だってじゅうぶんあったわけで、それがわずかの偶然が重なることで地獄絵図にならずに済んだことは、なによりの慶事だったと考えなくてはいけないようにも思います。

「いそがばまわれ」というように、天候などによる視界不良が原因なら、なぜゴーアラウンド(着陸のやり直し)をしなかったのかという指摘が多いようですが、パイロットにも性格があって、それで安全運行に差が出るとしたら恐ろしい話です。

折しもセウォル号事故から一年のわずか2日前の出来事でしたから、多くの人が肝を冷やしたことでしょう。