ヤマハのSとスタインウェイの比較にも面白い回答がありました。
ここに書くことは、ひとつの答えではなく、いろいろな答えの中から印象に残ったものを集めたものですが、ある回答では、「ヤマハのSあたりになると全面ウレタン塗装となり、見た目は美しいが非常に硬度のある材質なので、果たして木材の呼吸にそれが相応しいかどうか疑問に感じる」「日本人は音楽の歴史が浅く、どうしても高価なピアノを美術品的に捉える傾向がある」のだそうです。ウーンなるほどと思いつつ、そもそもウレタン塗装ってピアノにとってそんなに高級でいいのかといきなり疑問です。
また、ピアノ運送の仕事をしているという方からの回答でしたが、これが含蓄に富んだおもしろい答えでした。
まず「製品精度としてはダントツにヤマハ」と太鼓判を押していました。
「必要があってパーツを取り寄せても、ヤマハは同じモデルなら一発で装着できるのに対して、スタインウェイなどでは年式やモデルによって調整や加工が必要だったりで、メーカーに問い合わせをしても「そっちで合わせろ」というような答えが返ってくる」とのことですから、ヤマハのそういう面での優秀さと確かさはやはりすごいものがあると思わせられます。
実際の運搬に際しても、「ミシリともいわないヤマハに対して、スタインウェイはゆるゆるで、製品としての頑丈さは文句なくヤマハです」ということでした。
しかし、つけ加えられていたこと(ここが重要!)は、「しかし、製品精度と感銘を与える音の響きは比例しない。」「仕事はヤマハのほうがしやすいが、音は個人的にスタインウェイのほうが好み」と言っているあたりは、運送屋さんながらピアノの本質がわかっていらっしゃるなかなかのご意見だと思いました。
以前、スタインウェイに心酔する関西の大御所に聞いたところによれば、スタインウェイはただのボディの段階ではゆるゆるに作られているそうで、フレームを組み入れ、弦を張ってテンションがかかった段階ではじめてすべてが収束し、ピアノにかかる全体のバランスがこのとき取れるようになっている、非常に凝った、奥の深い設計をしているということでした。だからボディだけの状態と、フレームを組み入れ弦を張った状態とでは、わずかに寸法さえ変わるのだとか。
氏はその事に関して「断崖絶壁のぎりぎりのところに不安定な椅子を置いて、それに座ってバランスを取りつつ平然とコーヒーを飲んでいるようなもの」と喩えたものでした。
それに対して、ヤマハはボディと支柱にいきなり蟻組などを施して、初手からガチガチに作り過ぎるからダメで、しょせんは大工仕事の発想で、楽器製作の根本がわかっていないと、その巨匠は熱く語っていたのを思い出します。
したがってスタインウェイの場合は運搬時、とりわけクレーンで吊って搬入するようなときに、間違ってもピアノの支柱(裏側にある大きな数本の柱)にロープをかけてはならないのだそうで、スタインウェイのことを良く知る運送会社は絶対にこれをせず、ピアノが括りつけられた台座ごとロープをかけるが、ときどき無知な業者がこれをやってしまって最悪の場合はピアノに深刻なダメージを与えるとも言われていました。
そこで思い出すのは、あるピアノ店のホームページで「スタインウェイを納品しました」ということで、マンションの上階へクレーンで吊ってD型を搬入している写真が掲載されていましたが、なんとピアノは搬入前に歩道で梱包を解かれ、大屋根さえ外した状態の丸裸の状態、しかも支柱にしっかり太いロープが巻き付けられた状態で空中につり上げられており、思わず背筋が寒くなってしまいました。
話が脱線しましたが、ヤマハのSシリーズとスタインウェイのどちらを購入するかで悩んでいる人というのは結構いらっしゃるようで、値段が倍以上違うのでそれに見合う価値が本当にあるのかといったところなんでしょう。おもしろいのは弾く本人は試弾してヤマハを気に入っているのに、音楽に興味のないご主人のほうがスタインウェイの音を敏感に聞き分けて、断然こっちだと言い出すケースもあるようです。
また、不思議なことに、ヤマハの高級機種は検討範囲であるのに、カワイのSKシリーズは視野にも入っていない例がいくつもあり、回答者の一人が、カワイのSKは弾くとかなり心がぐらつくので一度試してみてはどうかというアドバイスをしていました。やはり一般的にヤマハとカワイではお客のほうにも相当な意識の差があるというか、端的に言えば客層が違うということなんでしょうか?
すくなくともヤマハのユーザーにとってカワイは眼中にないようで、このあたりはカワイユーザーでもあるマロニエ君としては複雑な心境です。
訳がわからなかった回答としては、しきりにヤマハをすすめる人がいて、しかもその人はスタインウェイのBとベーゼンドルファーの225を持っているということでした。
この人のアドバイスは、高級輸入ピアノは維持費が大変だからヤマハをオススメというのがその理由で、ずいぶんと上から目線なご意見で、それ自体にも違和感を感じましたが、そもそもスーパーカーじゃあるまいし、維持費ってなにがそんなにかかるのだろうと思いますが、具体的にはなにも記述はされていませんでした。