苦行は楽しみ?

先週のこと、出かける支度でひとりバタバタしている際、家人が夕刻のテレビニュースをつけていましたが、そこで気にかかるものをチラチラと目撃しました。

ゴールデンウィークを目前にしたタイミングで、これからでもまだ予約の取れる格安の宿泊プランというようなもので、人気のホテルや旅館であるにもかかわらず、まだ予約が可能で、しかも格安という裏には何があるのか…という特集でした。

なにぶん急いで出かける準備中ということで、じっくり視たわけではないので、詳しいことは違っていたら申し訳ないですが、たとえばある熟年夫婦が格安料金で泊まることのできるホテルだか旅館だかに到着します。
本当かどうか知りませんが、この二人には格安の理由がこの時点では知らされていない由。

部屋に通されてみると、一見してやや狭いとわかるツインの部屋で、ベッドがかなり部分を占領しているようです。
窓からの眺めはというと、建物の裏手かなにかの絶望的な光景が広がり、安いのはそれらかと思われました。ところが、ホテル側からはさらにとんでもない仕事を言い渡されます。

この施設にあるゴルフ練習場の「ボール拾い」を命じられ、年配の二人は旅装を解くと早々に練習場に行かされ、見渡す限り、水玉模様のように転がっているゴルフボールを手や熊手のような用具を使ってバスケットに拾い集めなくてはならないとのこと。
それも少々のことでとても終わるような量ではなく、見ていてこの夫婦が無性に気の毒になりました。記憶が確かなら、こんなことをさせられるとは思わなかった…というようなことをボソボソ言っていたように思います。

ほかにも、かけ湯式の温泉で出てくる、温泉のアクだかヘドロだか知りませんが、それを底のほうからすくい集める仕事をさせられるというのもあり、それらは「泥パック」などとして旅館で売られるのだそうで、こちらも宿泊客がせっせとそれを掻き集める作業をさせられるというものでした。
あるいは足元もおぼつかないような竹林の急斜面を登って、タケノコ掘りをさせられるというのもあったようで、いずれもテレビ画面を見ている限りでは、いわゆる「お客さん」とは名ばかりの、屈辱的肉体労働をさせられるようで、マロニエ君にとってはちょっと笑えないものでした。

こんなことが、どんな前提でなされる提案であり、それを承知の予約なのかは知りません。ただ、その料金はというと、それほどの破格なものとも思えるものでなかったことが、さらに驚きでした。
いまどきですから、もしかするとお客さんの方でも、「格安」であることのお得感と、「行った先で何が待ち受けているかわからない」というところに冒険心のようなものを感じて「楽しんでいる」のかもしれません。
さらに、この時期の格安とあらば、いかなることにも耐え抜こうという悲愴な覚悟があってのことかもしれず、そのあたりの個々の参加者の心情まで正しくはわかりませんでした。

しかし、いずれにしろマロニエ君の眼には、到底受け容れられないものとしか映らなかったことも事実で、こんなことを楽しんでいるのだとすると、これは相当なMというか自虐趣味としか言い様がないと思いました。

今どきは、法に触れず、相手の同意さえあれば何でもアリの時代ではあるし、お客さんをもてなすプロ意識だとか、商売をやる上でのルールだとかご法度のようなものも、すっかり様変わりしてきているのかもしれません。
以前なら、価格云々の問題ではなく、こともあろうにお客さんに裏方の労働をさせるなんぞ、無銭飲食の罪滅ぼしぐらいなもので、通常は発想にもなかったことだろうと思います。

どんなスキャンダルでもいくら相当の宣伝効果があった、などといちいち換算して損得勘定するような社会ですから、ホテルや旅館側にしてみれば、お客さんを安くこき使った上に、話題作りにもなり、うまくすればテレビの取材対象にもなるとなれば、一石三鳥ぐらいなことかもしれません。

まあ、マロニエ君だったら端からそんなデンジャラスなことに参加しようなんて思いませんし、まかり間違ってそんな場面に行き合わせようものなら、ほぼ間違いなくそんなところは出てくるでしょうし、それを楽しみに転換させるような物分かりの良さとか柔軟性な感性は持ち合わせてはいないでしょうね。