普段見る習慣のないNHKの「ららら♪クラシック」ですが、他の番組を録画する際に、たまたまこの番組も目についたので気まぐれにセットしてみたところ、通常の1曲解説ではなく、「楽器特集~ピアノ」がテーマで、思わずラッキー!という感じでした。
このテーマでは、ほとんどお約束ともいえる「ピアノという名前はなぜそう呼ばれるようになったか」というところから、300年前にピアノはイタリアのクリストフォリという人が云々というあたりまでは、はいはいという感じです。
意外だったのは、フランスの代表的な二人のピアノ製作者、エラールとプレイエルの名が出てくるところですが、この番組では、リストはエラールを好み、ショパンはプレイエルを好んだと、あまりにきっぱり色分けされていたことでした。
さらにリストはエラールの革新的な音や性能を高く評価したのに対して、ショパンがプレイエルを好んだのは、例のダブルエスケープメントの登場前の、シンプルな機構から生まれる音色にあった由で、マロニエ君はこれに反論するほどの材料は持ち合わせないので、いちおう「そうなんだ…」と思うことに。
ワルツ第1番のあの特徴的な連打を、古い機構のアクションで弾いていたということなのか…。
古典的なさまざまなピアノが出てきたものの、それらは映像ばかりで音はほとんど聴かせてくれなかったのはとても残念でした。
マロニエ君の注目を引いたのは、ある時期のプレイエルには第二響板というのがあって、開けられた大屋根の一部にそれは格納されており、必要時には留め具を外すと大屋根の内側に取り付けられた板が下に降りてくるようになっており、中音から下あたりの弦の上に覆いかぶさるようになります。
この状態でピアニストがショパンのバルカローレの一部を弾いていましたが、「第二響板をつけると、高音から中音、低音までバランスよく響くようになる」とのことで、音色はいうに及ばず、弾かれた音の余韻にこだわるプレイエルには、むかしこんなアイデアがあったのかと唸ってしまいました。
この第二響板なるものは、一見すると本来の響板から出る音にフタをしてしまうような印象もありますが、響板と呼ばれるからにはそれなりの木材が使われているのでしょうし、それによって絶妙のニュアンスが生まれるのだとすると、これはぜひ実物の音を聴いてみたいものだと思いました。
とっさに連想したのはバイロイトの祝祭劇場で、オーケストラピットがそっくり舞台下に隠されて、ここ以外ではあり得ない独特な音響を作り出すことで有名ですが、そんなものなんでしょうか。
たしかに現代は、楽器の性能や演奏技術、あるいは作品解釈においてはずいぶん研究が進んでいる(正しい方向か否かは別にして)ようですが、微妙な音色であるとか音響上のニュアンスというものについては、さほど意識が払われないよう気がします。
音楽あるいは演奏にとって、立ち現れてくる音のニュアンスというのはかなり重要なファクターだと思いますが、その点では現代ではくっきりはっきりブリリアントが首座を占めているようです。
後半には横山幸雄氏が登場し、ピアノの多様性を紹介するためか、ベートーヴェンの熱情、ショパンのノクターンop.9-2、リストのカンパネラをかなり割愛した形で連続して弾きました。が、どれもほとんど同じように聞こえてしまったのが正直なところで、えらく無感情な、まるで残業の仕事でも急いで片付けるように弾いてしまったのには、ちょっとびっくりでした。
ネットの動画では、どこかの音大での横山氏のレッスンの様子を見ることができますが、かなり細かい点までいちいち指示している当の本人が、このような弾けよがしな演奏をすることに、このレッスンの受講生やビデオを見た人はどんな感想を持つのだろうと思いました…。
ちなみに番組が進行するメインスタジオには、わりに新しめのスタインウェイDが置かれていて、横山氏もそこで話をしていましたが、演奏そのものは別のスタジオなのか、別のピアノ(30年近く前のスタインウェイD)が使われていました。
NHKの収録の都合でそうなったのか、横山氏の希望でこのピアノが使われたのか、そのあたりの事情は知る由もありませんが、いずれにしろ個人的にはスタインウェイではこの時期のピアノを好むため、つい期待したものの、そういうものを味わう余地もないまま、肉の薄いタッチでサササッと終わってしまったのは甚だ残念でした。
蛇足ながら、司会者の加羽沢美濃さんがスタジオに置かれたスタインウェイDを紹介する際、「このピアノはフル・コンサート・ピアノ、通称フルコンと呼ばれるもので、全長2m80cm、重量480kg…」と言い、併せて画面には文字でも数値が映し出されたのは、ん?と思いました。語尾に「ぐらい」がついていればまだしも、実際は274cmなのでいささか抵抗感がありました。
NHKのコント番組、LIFE風にいうと「これはちょっとまずいですね、NHKなんで!」というところでしょうか。