染み込んだ体質

たまたま見た、あるテレビ番組での話。

自転車店の最も少ない都道府県はどこかというと、普通は雪の多い北海道や東北地方では?と考えてしまいがちですが、意外なことに真逆である沖縄県なんだそうです。

というわけで那覇市内の街の様子が映し出されますが、車はたくさん走っているのに、自転車に乗っている人というのはまったくといっていいほど目に入りません。国際通り?とかいうメインストリートでも、ひっきりなしに行き交う車に対して、歩道は人もまばらで、たしかに自転車など影も形もなし。

番組では、県内で数少ない自転車店に入ってそのあたりの事情を尋ねると、沖縄の人はそもそも自転車にはほとんど乗らないらしく、その店は主に競技用など趣味としての自転車を取り扱っているだけで、日常生活で多く使われる普通の自転車は、ほとんど買う人がいないのだそうです。
売れるのは年にせいぜい2~3台というのですから、今どきの自転車大増殖とその無謀運転に悩まされる我々からすれば、ただただ驚くばかりでした。

その理由を探ってみると、潮風で車体が錆びるとか、暑いから汗をかくとか、アメリカによってもたらされた自動車文化が根付いた、などの理由がありましたが、最大の理由は、要するに自分の足の力を動力とする自転車というものが、そもそも沖縄の人の感性に合わないということのようでした。

では沖縄の人は移動手段はどうしているのかというと、ちょっとそこまででも、必ず「車で行く」のだそうで、さっきの自転車店のご主人がいうには、自分の奥さんもあそこの(ほんとうにちょっと向こうにあるぐらいの距離)コンビニに行くにもわざわざ車に乗って行く(笑)のだそうで、他の人に聞いても、自転車には「乗らない」し、目前に見ているぐらいのところでも「車で行く」と笑いながら当然という感じで答えていました。

マロニエ君にとって、これってまるで自分のことのようでもあり、おかしいような笑えないような、でもやっぱり笑ってしまうしかない不思議な気分でした。

歩かなきゃいけないのはむろんわかっているし、マロニエ君のまわりにも普段から驚くべき距離をせっせと歩いている人が何人かいて、ご苦労なことというか、呆れるというか、要するにただ感心させられるのですが、では自分も見習って少しは歩くよう心がけるかというと…さらさらそんな気はないのです。
どこへ行くにも、唯一気にかかるのは先に駐車場があるかどうか、その点だけ。

お店なども、どんなに行きたい店があっても駐車スペースがないようなところは、それだけで行くことを諦めますし、それ以上の挑戦はしません。

しかしマロニエ君以上の人もいて、知り合いで50ccバイクの常用者がいますが、その人は100メートル以上移動する際は、必ずヘルメットをかぶってバイクにまたがります。エンジンを掛けたりあれこれやっている間に歩いたほうが早い場合もあり、さすがのマロニエ君もその徹底ぶりには唖然とさせられることがあるのですが、ここまでくると何か突き抜けた感じがしてきます。
日常を電車やバス+徒歩もしくは自転車で過ごしておられる方からみれば、およそ信じ難い感覚かもしれませんが、これもきっとある種の依存症なのかもしれません。

いずれにしろ、いったん身についた習慣は、容易なことでは変わるものではなく、沖縄の人達の車依存もかなり根の深いものだなあと、なんだか妙に親近感を覚えてしまいました。

沖縄ではこの気質をネタにした地域限定のテレビCMまであるようで、野球の試合中、フォワボールになるとバットをポイと地面に放り投げたその手をおもむろに上げると、そこへ本物のタクシーがやってきてパカッと後ろのドアが開きます。なんとバッターはそのタクシーで1塁までいくというもので、それほど歩くのがキライだというわけでしょう。
まあこれはオモシロCMだとしても、根底にそういう感性があるのは理解できてしまうのです。

ふと思い出しましたが、以前入っていたピアノクラブでも、移動となると、みなさんごく自然に(マロニエ君にしてみればギョッとするほどの距離を)てくてくと歩いて行くのには「エッ、世の中、ふつうはこうなの?」と内心驚愕したことが何度かありました。最初のうちはお付き合いの気持ちもあって車は使わずに参加していましたが、これはもうたまらん!というわけで、以降はどこであれ車で行くようになりました。