続・便利の不便

前回「便利の不便」という事を書くつもりが、すこし変な方向に流れてしまったので続きを。

自動車の世界では、近ごろ当たり前になりつつある電子ずくめの制御および操作系は、車を運転するという人の生理の延長上にある行為を、おおいに阻害しているというべきです。
ブレーキなども年々オーバーサーボ(ちょっと踏んでもグワッとブレーキが効きすぎる)になり、スムースかつナチュラルな操作をするにはかなり繊細な操作を要求しますが、これなどは小柄な女性や高齢者であっても充分なパニックブレーキが得られるための「安全対策」だということになっているようです。

カーナビもどこか乙にすました純正品より、市販の後付のもののほうが、誰がなんと云おうと圧倒的に使いやすいのは紛れもない事実。
いくつもの機能をひとつのモニターに適宜表示させるなど、いかにも手際よく取りまとめられたかに思える現代の車は、肝心の点、つまりそれを使う人間の心地よさというものが二の次になっていると思われ、これは技術の進歩による明らかな操作性の後退であり、ひいてはドライバーのためのコンフォート性の低下ではないのかと感じます。

スタイリッシュなデザインの中に流し込まれた標準装着のナビゲーションはじめ、TV、電話、オーディオ、さらには車の出力特性やハンドリング/シフトタイミングなどを変化させる電子的機能が、センターコンソールのボタン群を中心にモニターを見ながら複雑かつ多層的な操作を要求するようになっていて、必要な項目を呼び出すだけでも一仕事というのはいかがなものか。さらにその横には指先で字を書くようになっているパッドのようなものであって、うっかり触れても思わぬ機能が反応したりと、もうなにがなんだかさっぱりです。

わけてもカーナビの使いにくさは並大抵ではなく、よほど使い慣れたタッチパネルのゴリラでも別につけようかと本気で思ったのですが、せり出してくる純正ナビがじゃまになって、どう見ても取り付ける場所がなく、この作戦は断念することに。

ほかにも前後左右に衝突の危険を知らせるためのセンサーが仕込まれており、これがまた車庫入れの時などピーピープープーと盛大な警告音がして、却って思い通りの駐車ができないのです。そもそもバックカメラなんて見ながら車庫入れするほうがよほど難しいのでは? 助手席の背後に手を回して後ろを向いてガーッとバックするのが早いし爽快だし運転技術も上がるというもの。

ハンドルにも正体不明のスイッチが居並び、しかも切り替えによってひとつのスイッチが何通りもの役を兼ねており、なんでたかだか車に乗るのにこんなややこしいものに取り囲まれなきゃいけないのかと、ふとばかばかしいような気になります。
とりわけ興ざめだったのは、せっかく気持よく音楽を聴いているのに、どうでもいいような交通情報とか「この先の交差点には右折専用車線があります」といった無意味なことを次々にしゃべり続け、しかもそのつど音楽は強制的にトーンダウンさせられるので、もう曲の流れはズタズタで、腹立たしいといったらありません。

ついに堪忍袋の緒が切れ、それらはディーラーに相談したら、「設定」の操作によって「黙らせる」ことにめでたく成功しましたが、中にはキャンセル出来ない機構というのもあるのが困ります。たとえばアイドリングストップは、機械の判断だけで信号停車中などで突如エンジンが止まってしまいます。
省エネは大事だけど、信号や渋滞のたびにいちいち強制的にエンジンが止められるのはどうしても嫌なのです。いちおう「アイドリングストップを機能させないボタン」というのはあるにはあるけれど、これは一度エンジンを切れば解除されるようになっていて、乗るたびに毎回このボタンを押さなくてはならず、忘れていたらすかさずエンジンはプツンと停止。

マロニエ君自身がそういう新機構にスッと馴染みきれないタイプだということはあるとしても、どうも最近の機械は「使う人」を中心にした思想が希薄で、多機能とスタイリッシュだけが宣伝効果としてカタログを飾り立てているような気がします。
その点では昔のメルセデスなどは、本当に人間中心の骨太の哲学が貫かれた車だったと思います。


不満ばかりを書き連ねましたが、もちろん良くなっている点もあるのは事実です。
たとえばこの車は通常のオートマティックではなく、Sトロニックという自動クラッチによる変速機構を持っています。簡単に言うとマニュアルトランスミッションのクラッチ操作を機械がやってくれるというもので、そのぶんアクセルワークにたいしてパワーがダイレクトに乗ってきます。

しかも繋がりは驚くほどスムースかつ瞬時に行われ、トルコン式のオートマやCVTはどれほどよくできたものでも、一定のロスがあることがわかります。さらに7段ものギアを千変万化させながら駆使するので、ダッシュもやたらと力強く、燃費にも優れているようで、たしかにこういうところは技術の進歩を痛感させられるところです。