いよいよアマゾンにでも注文しようか、あるいはダンプチェイサー肯定派の調律師さんに連絡して購入を打診してみようかと迷っていたときのことでした。
別件で物置で探しものをしていると、壁の隅から、なんと、使っていないダンプチェイサーが思いがけなくワンセットそっくり出てきました。
探しものそっちのけで驚いたのはいうまでもありません。
で、よくよく考えたら、別のピアノに縦横2つ付けていた時期があり、それを乾燥の進む冬場にその片方を外してみたとき、床に放っておいたら、家人に片付けるように言われて、とりあえずという感じで物置に放り込んでいたのをすっかり忘れていたのです。
あやうく「購入する」をクリックしていたかも…と思うと、おマヌケもいいところですが、ともかく危ないところでした。
ひゃー、嬉しや!とばかりに、さっそくディアパソンへ取り付けることに。
本当は梅雨から夏場での急激な状態の変化を避けるため、あえて湿度の少ない冬場に取り付けて、徐々に慣らしていくことを推奨している技術者さんもおられ、その慎重を期する姿勢には敬意を覚えますが、マロニエ君ときたら低血圧なクセにめっぽう短気で、ゆっくり構えて待つというようなことが大の苦手です。
冬まで待って、取り付けて、その効果が出るのは来年の梅雨以降だなんて、とてもじゃありませんが、そんなに待っていられるか!というわけで、そこは強行突破して取り付けることに。
ピアノ下部のペダルのすぐ後ろぐらいの位置で、左右二ヶ所の支柱へ針金を通して、鍵盤と並行になる向きに吊り下げます。
針金で吊り下げるのは、このほうが作業じたいも簡単であるし、ピアノに無用な加工をしなくて済むので、マロニエ君は必ずこの方法を採っています。
その点では、調律師さんは仕事なので、キチッと作業として仕上げるためにも、そのための費用を取ってビシッと取り付け作業される方がほとんどのようです。調律師さんにとってはそれも商売のうちなので仕方ないですが、本当はいきなり固定せず、あれこれ場所を変えて試してみるのもいいと思います。
頼んで取り付けてもらう場合、「見えない場所だから」ということで、付属の取付パーツを使ってピアノ本体へネジ止めされることになりますが、実はマロニエ君はあれがイヤで、見えない場所でもピアノのリムや支柱にネジ穴を開けるなんて、理屈なしにとにかく感覚的に受け容れられないのです。
それもあるし、そもそもダンプチェイサーの取り付けなんて、いわゆる「取り付け」のうちにも入らないもので、わざわざ作業代を払って人に頼むような種類のものではありません。
それに支柱から、物干し竿のように針金で吊り下げるだけなら、気が変われば、また別の位置や方向に付け替えも簡単で、高さも自分が納得の行くように調整できます。
さて、結果はというと、取り付けたのは夜だったのですが、翌日夕方にはハッキリとした違いがあらわれたのには、さすがのマロニエ君も予想以上でした。まず音に芯が出たというか、艶が出たというか、ややピンボケ気味になっていた音色に精気が戻りました。さらにはアクションの動きが若干スムーズになり、その相乗作用でずいぶんといい感じになりました。
もちろん激変というようなものではなく、微妙な違いでしかありません。
しかし、ピアノにとってはこの微妙な違いでかなり世界がかわるものです。
それともうひとつ確かなことは、閉ざされた箱のなかに取り付けるアップライトならともかく、外部にむき出しになるグランドでは効果は期待できない、「あんなものは気休めだ」という説がありますが、それは完全な誤りで、効果にいくらかの差はあるにせよ、グランドでもかなり有効だということは確かです。