『ピアノのムシ』

以前から書こうと思いつつ、つい書きそびれていたこと。

マロニエ君は本はそれなりに買うものの、マンガは日本の誇るサブカルチャーなどと云われていますが、基本的に興味がありません。
ただ、いつも行く福岡のジュンク堂書店は、4Fが音楽書や芸術関連の売り場なので、1Fからエレベーターで直行し、そこから下りながら他のフロアにも立ち寄るというのがいつものパターン。

4Fでエレベーターのドアが開くと、そこはものすごい量のマンガ本売り場で、狭い通路を左に右にとすり抜けたむこうが音楽書や美術書のエリアとなっているため、よく通る場所ではあったのです。

最近はクラシック音楽やピアノを題材にしたマンガもあるようで、その最たるものが「のだめ」だったのかどうか…よく知りませんが、楽譜やCDまでマンガから派生したアイテムが目につくようになり、もはや「ピアノ」という単語の入ったタイトルぐらいでは反応しなくなっていました。
ところが、あるとき本の表紙を見せるように並べられた棚を通りかかったとき、一冊のマンガ本の表紙には、グランドピアノを真上から見たアングルで男性が調律をしている様子が描かれているのが目に入りました。しかもそれが、やけに精巧な筆致で、フレームの構造およびチューニングピンの並び加減から、描かれているのはスタインウェイDであることが明白でした。
「えっ、これは何…?」って思ったわけです。

フレームに「D」と記されるところが「E」となっているのは、まさに内容がフィクションであるための配慮で、歌舞伎では忠臣蔵の大石内蔵助が大星由良之助になるようなものでしょう。
これがマロニエ君が荒川三喜夫氏の作である『ピアノのムシ』を認識したはじまりでした。

そういえば、アマゾンで書籍を検索する折にも、近ごろは関連書籍として「ピアノの…」というタイトルのマンガが多数表示されてくるし、それもいつしか数種あることもわかってきていたので、いったいどんなものなんだろう?…ぐらいは思っていましたが、もともとマンガを読む習慣がないこともあって、ずっと手を付けずにきたというのが正直なところです。

さらに店頭ではマンガは透明のビニールでガードされて中を見ることができず、「見るには買うしかない」ことも出遅れの原因となりました。

話は戻りますが、その表紙の絵ではアクションを手前に引き出したところで、そもそも、あんなややこしいものをマンガの絵として描こうだなんて、考えただけでも大変そうでゾッとしますが、それが実に精巧に描かれているのは一驚させられました。
察するに、これは弾く人を主人公としたメランコリーな恋愛や感動ストーリーではなく、あくまで調律師を主軸とした作品のようで、帯には「ピアノに真の調律を施す唯一の男」などと大書されており、さすがにここまでくると興味を覚えずにはいられません。

「買ってみようか…」という気持ちと「いやいや、バカバカしいかも」という思いが入り乱れて、とりあえず時間もなく、この日買うべき本もあったので、このときはひとまず止めました。

その後はちょっと忘れていたのですが、アマゾンを開くと、過去に検索したものや、頼みもしないのにさらに関連した商品が延々と提案されるのは皆さんもご存知の通りで、その中に再び『ピアノのムシ』があらわれました。
いちど興味が湧いたものは、どうも、その興味が湧いたときの反応まで記憶されるものらしく、書店であの表紙を見たときの気分が蘇り、やっぱり買ってみようかという気に。

こうなると、書店に出向いて、あの膨大な量のマンガ本の中から1冊を探す億劫を考えたら、とくにアマゾンなどは1クリックですべての手続きが済むのですから、ついにポチッとやってしまいました。

こうして、我が家のポストに『ピアノのムシ』第1巻が届き、以降続々と増えているところです。
感想はまたあらためて書くことに。