軽くなりました!

9月の中旬からスタートした調律師Bさんによるタッチの改善作業は早くも5回目を迎えました。

ピアノの調整というものは、やりだすと際限がないものですが、いちおうの山も見えてきたことでもあり、マロニエ君としては願わくはここらで一区切り(終りという意味ではなく、あくまでも区切り)をつけていただければと考えて、できれば整音と調律までやっていただきたいとお願いしてみました。

今回はキャプスタン位置修正後、未完となっていた調整作業の続きが第一の目的でしたが、このさい調律もしてもらって、いちどきれいに整った音で弾いてみたくなったのです。
その結果を含めながら先に進みたいという目論見です。

今回は約4時間ほどの作業となりましたが、その結果はというと、懸案であったタッチ改善は大成功で、長年背負ってきた荷を下ろしたように軽快になり、めでたくこのピアノのオーバーホール以来、最も弾きやすい均一なタッチを獲得するに至りました。

さらに整音と調律がなされたことで、これまでとはかなり違った表情をみせるピアノへと変貌し、ついにここまで来たか!と思うと、その長かった道のりは感慨もひとしおでした。

ダウンウェイトを計ってみると、概ね50g未満となっており、もはやスタインウェイ並の数値です。
もともと重い部類に属するディアパソンとしては、これは望外のものであるし、タッチの感触も軽快で、フレーズの終りなど手首を上へ抜いていくような局面でも、細やかにきちんと表現できるものになったことは予想以上でした。

なにより特筆大書すべきは、鍵盤の鉛調整であるとか、ハンマーを軽いものに交換もしくは整形によって軽くするなどの方法は一切とられていないという点です。
以前にも書いたように、ずれていたキャプスタンの位置を修正した以外は、ひたすら各部各所の調整によって達成されたもので、これはピアノの整調において、最もオーセンティックなやり方であったと思います。

マロニエ君は、Bさんの技術者としての思慮深さと、結果に対して尊敬と感謝の念を禁じえません。やはり中途半端に諦めてはいけないということであり、単に嬉しいだけでなく、いい勉強にもなったというのが率直なところです。

重く暑苦しいタッチに慣れてしまったためか、はじめは戸惑うほど楽々とキーが沈み、かつ速やかに元に戻ります。しかもpやppもなめらかでコントローラブルであることは、Bさんの技術の奥深さと技術者魂をまざまざと感じます。

軽くてもストンと一瞬で下に落ちてしまうタッチでは、強弱や音色のコントロールがしづらく楽しくありませんが、入力に対していかようにも反応してくれるタッチは、自分の体とアクションがダイレクトにつながっているみたいで、とくに装飾音などがきれいにキマってくれたりすると、弾いていて俄然楽しくなります。

実はマロニエ君は、以前にも経験があったのですが、冴えないタッチを改善するための策としては、特にこれという特効薬のような技法があるのではなく、セオリー通りのきちんとした調整を忍耐強く積み上げることによって、ようやく達成できるものということを理解したことがありました。
そうはいっても、ピアノの調整はプロの専門領域なので、技術者の方の判断こそが決め手となり、持ち主は何の手出しもできません。そのためにこういう難所を越えられないまま、ずっと弾きにくい状態が続いているピアノはものすごくたくさんあるはずです。

そういう意味では、ホールのピアノの保守点検などは、いわば調整領域のオーバーホールみたいなところを含んでいると思われ、これは確かに必要なんだということが痛感させられます。

我が家のディアパソンでは、結果として対症療法的な解決ばかりを探っていたのかもしれず、かくなる上はタッチレールというアシスト装置の取り付けすら考えていたわけで、今回は、そのタッチレールを取り付けるかどうかを判断する、最終確認という意味もあったので、きわどいところだったという気もします。

ではこれで終りかというと、どうでしょう…そうでもあるような…ないような、問題がないわけではないけれど、あまりそういうことにばかり気持ちが行っていると、一番大切な「ピアノを楽しむ」という部分が置き去りになってしまうので、しばらくはこの状態を楽しむべきだと思っているところです。

持ち主が楽しめば楽しむだけ、当人はむろんのこと、ピアノも幸せであるし、なにより技術者さんも腕をふるってくださった甲斐があるというものですから。