恐怖の20分

パソコンが生活の中に入ってきたことで、計り知れない恩恵に浴してきたことは事実であるいっぽう、同時に神経消耗の機会も断然増えたように思います。

とくにパソコンがめっぽう苦手なマロニエ君にとっては、いろいろなトラブルに見舞われるたび、疲労困憊し、時には寿命を縮めるような目にも遭ってきたのは事実です。

最大のものは、10年ほど昔のことだったと思いますが、CD-RWをしばしば使っていた時期があり、用済みのものは消去して書き換えていたところ、あるとき確認不足もあって、ハードディスクに記憶された内容を全て消してしまうという大ミスもやらかしました。

画面上、CD-RWとHDのボタンが上下隣り合わせであるのが設計の不親切だと今でも思いますが、ともかく一度消えたものはどうしようもなく、友人知人を総動員して修復機能など、あらん限りの策は尽くしてもらったものの、修復できたのはごく一部でした。
まさに身体中の血が一気に下へ落ちていくようで、胸はえぐられ、顔から両肩へかけての皮膚が焼かれるような思いをしたあげく、茫然自失、大切なものを多く失い、こんなことはもう二度とゴメンだと心底思いました。

そんなことから、だいぶ用心するようにはなったものの、それでも慣れというのは恐ろしいものです。
戦慄の瞬間は、ついにまたやってくる事になりました。

マロニエ君のパソコンはiMacなのですが、デスクトップの大きなモニターは本体と一体型です。CDドライブももちろん内蔵されていて、メディアは画面横の右側面から挿入するという構造。
さらに、CDドライブのすぐ下にSDカード用の挿入口があり、はじめの頃は目でよく見ながら出し入れをしていたものですが、だんだん使い慣れてくると右手がおおよその場所を覚えてしまって、忙しいときは、いちいち見ないで挿入するようになりました。

ところがです!
昨日、SDカードをいつものようにヒョイと入れたところ、なんだか右の指先に伝わる感触がいつもと違いました。
ん??と思って上半身を右に傾けて見てみると、なんと、CDドライブの挿入口にSDカードを差し込んでしまっており、しかも下に傾いた状態で入ってしまって、SDカードの小さな青い角がほんの1mmぐらい出ているだけでした。

これはえらいことになったと思って、慎重に爪の先でつまんでみたのですが、やはり気持ちが焦っていたのか、取り出すどころかあっという間に中に入ってしまいました。まるで溺れる犬の足をつかみそこねて、氷の張る池の中へ無残に吸い込まれていったようでした。
挿入口はホコリが入らないためか、スポンジ状のものが左右ピッタリと合わさっているため、中の様子を窺い知ることはまったくできません。しかもその間隔は2mmほどだし、パソコン全体もネジ一本緩めるような場所はなく、機械をバラして取り出すことはどうみても不可能です。

この時点で、心臓はどうしようもないほどバクバクし、血圧が上がったか下がったか知りませんが、ともかく真っ青というか絶望的な気分になってしまい、思考力もほとんど停止状態でした。ようやく思いついたのは、事務用クリップを伸ばして先だけ曲げ、それで引っ掛けて取り出そうということですが、これは何度やってもまるでダメで、そもそもSDカードらしきものに触っている感触すらありません。

そのSDカードには仕事上非常に大事な写真が多数入っていることを思うと、あまりに突然のことで、神経の作用だと思われますが両手両足まで痺れてくるのがものすごく不快でした。明日は本体を抱えてアップルストアに行くのかなど、いろいろイヤな想像がめぐります。

そんなとき、ふと思ったのが、ネットで検索でこの緊急事態の解決法が万にひとつもないものかということで、ショックで思うように動かない指先に力を込めて、あれこれの言葉を連ねてキーボードを叩いたところ、同様の目に遭った人の書き込みを発見!
やはり針金のたぐいでは細すぎてダメだとあり、なんと厚紙をコの字型にカットして、それを奥まで差し入れてSDカードごと引っ張りだすというものでした。なるほど!!!と思うや、さっそく机の周りを見渡します。

果たして、これはどうだろうと思ったのが、amazonからCDが送られてきたときに入っていた薄手のダンボールの封筒でした。それを大急ぎで解体し、あまり慌てて怪我をしないよう注意しながらなんとかそれらしきものを作り、さっそく挿入口に差し込んでみますが、なかなか思うようにはいきません。
5~6回やってもダメなので普通なら諦めるところですが、もはや他に手立てがないため、泣きたいような気持ちを抑えながら、それでもひたすら試しました。紙なので、コの字型の付け根の部分がだんだん弱ってきて危なくなってきたころ、天の助けというべきか、ついにSDカードの青色がわずかに顔を出したときの嬉しさといったら、思わず狭い自室で叫びたいほどでした。

今度こそはと慎重の上にも慎重にそれを掴み、ついに無事に取り出すことができました。
世の中には、なんというありがたいことを書いてくださっている方がいらっしゃるのかと、その方にはひれ伏して拝みたいくらい感謝しています。
本当に救われましたが、金輪際こんなことイヤで…非常に疲れました。