うらがみ

わずか2回で整骨院通いをやめてしまったマロニエ君でしたが、その2度の施術が功を奏したのか、あるいはちょうどそういう時期に差し掛かっていたのか、このところ少し良くなる方向へ進んでいるようです。

これまでは椅子にすわる姿勢はもちろん、立ち上がる際には細心最大の注意が必要でしたし、わけても車から「降りる」ときは、それこそ切腹でもするみたいに決死の覚悟でしたが、それがいまでは、もちろん注意は必要ですが、以前の半分以下の痛みと労力で済むようになりました。

車中から意識して見ていると、整骨院のたぐいは街中の至る所に存在しており、その数にはいささか驚きました。これまでは意識したこともなかったけれど、ああも乱立すれば激しい競争に違いまりません。

さて、例の高額な電気治療ですが、機械の名前を覚えていたので、ネットで検索してみたところすぐにその発売元のサイトがあり、なんとそこには
「○○○導入で売上100万円超を実現」
「○○○導入した初月平均売上は80万円、そのうち37%が100万円超の実績」
「中には売上200万円以上を達成した院も」
「専門知識不要!カンタン操作」
「新しい自費メニューの導入は面倒だが売上を上げたい院(にオススメ)」

などと色とりどりの大文字で書かれていて、これを見ることで爽やかになるぐらい事情は飲み込めた気分です。

だとしても…毎回あの値段というのは、やり過ぎというものです。
何事もさじ加減というのは大事で、そのあたりプロの商売人ならどれぐらいにするか、客側の心理面なども勘案していい線を導き出すのでしょうが、そこがただの欲深いだけのシロウト感覚で決めてしまうのでしょう。
マロニエ君も、もしあれが半額だったら腰痛を治したい一心から、しぶしぶ通っていたかもしれませんが、毎回5000円強ではあれこれと懐疑的になるチャンスをいやでも与えてしまったようなものです。

しぶしぶならまだ相手を「信じよう」と努めるものですが、懐疑的になったら「疑おう疑おう」というふうに考えは向かってしまいます。
逆にいうと、だからそのおかげでサッパリご縁が切れたということでもあるわけです。

ちなみにこの機械を導入している他の院の料金はどれぐらいか調べてみると、おおむね3000円前後というのが多く、回数券の設定があって、3回5回10回となればさらに一回あたりは安くなるという仕組みのようです。

ところがマロニエ君の行った院ときたら、そんなものは一切無しで、毎回税込み4320円請求するのですから、小さなところなのに大した度胸だなぁと思います。昔だったらいざ知らず、今どきは誰でもネットでいろんなことが簡単に調べられるわけで、いくら強欲でも、もう少し慎重であるべきだったようです。

そういえば今回、はじめに治療計画を聞かされる際、ちょっとおかしなことがあったのを思い出しました。
その整体師は紙に書いてこちらに説明するため、アシスタントのお兄さんに「紙とってぇ」と言いました。お兄さんはハイといって、すぐに棚からコピー用紙を一枚とって整体師に手渡します。
ところが整体師は「これじゃない」「うらがみがあるから」と言われてお兄さんはキョトンとしています。
すぐに通じないので整体師はせっつくように「うらがみ!うらがみ!」「?」「その下にあるから!」というと、お兄さんが焦りながら探していると、「そこじゃない、その上!」などとやや声を荒げたあげく、ついに求める紙が手渡されました。

なんとそれは、コピーかFAXの使用済みの紙を捨てずにとってあるものらしく、うらがみは「裏紙」なんだということがこのときはじめてわかりました。
内々でメモにでも使うのならともかく、これから「腰を痛めたカモに」向って高い治療費の説明をしようというのに、コピー用紙一枚さえ惜しいとはなんなのかと思いました。

誰もが知るように、今どきA4のコピー用紙は500枚包で300円しません。
一枚あたり0.6円以下なわけですが、それを他人というか、いわばお客さんの前であれだけおおっぴらに倹約し、出した紙を突き返してまであえて裏紙を使うという行為にも驚きました。
ただ、それと、人から30分の電気治療だけで4320円せしめるというのは、実は同じ精神構造から出るものだろうと思います。

ま、それだけマロニエ君もマヌケだったということでもありますが、人の弱みにこうも容赦なく付け込むという行為はやはり容認はできません。