我がディアパソンは、度重なる調整の甲斐あって、かねてより懸案であった軽快なタッチが達成できたことは大願成就というところでした。
繰り返えすようですが、技術者のもつ技術力に加え、各ピアノにはメーカーごとの個性や癖があるため、それを熟知した技術者さんの手に委ねるかどうかで結果は大きく違ったものになることをあらためて認識したところです。
仕上げには音色も整えていただいたことで完成度を増してくると、これまであまり感じなかった部分が見えてきて、我が家のディアパソン210Eの場合は、鳴りというかパワー感がやや不足気味という面を感じるようになりました。
一部例外を除くと、多くのピアノはオーバーホールすることで鳴りが悪くなることがよくあるようで、それなのか、もともとこのモデルがそういう性格であるのか判然としないものの、できればあとちょっとだけ鳴りの豊かさみたいなものがあればなぁというのが偽らざるところです。
この点を技術者さんに相談しますが、「ではまた見てみましょう」と快く言ってくださいます。
しかし、これはピアノとして根本のことだとも考えられるので、例えばすでにやっている弦合わせや整音をくりかえしても、それで解決できるとも思えず、結局まだお願いするには至っていません。
あえて単純な言い方をすると、ピアノ技術者がピアノにほどこす各種の作業というものは、煎じ詰めればタッチや音程や音色などの「乱れ」を細心の注意をはらいながら「整える」ことに尽きるだろうとマロニエ君は思っています。
その整え方に、技術や経験が問われ、限りない深さがあり、ひいては技術者各人の人柄やセンスまで表れる匠の世界というのは間違いありませんが、しかし設計者や製作者ではないということも事実でしょう。
ピアノ技術者(つまり調律師)はピアノのコンディションを最良最善の状態へと整えることが仕事のメインであって、楽器が生まれもっている個性やポテンシャルそのものは、さすがの技術者も変えることはできない(だろう)と思うわけです。
よってこの点は打つ手はないだろうと半ばあきらめ気分でいたわけですが、あるときのこと、ネット上で不思議なものを見つけました。
いちおう固有名詞は避けておきますが、それは、もう一歩ピアノが鳴ってくれないと感じるピアノをより鳴るようにするための器具だと説明されていました。
写真をみると「貼るだけのお灸」みたいな形で、木と金属で作られているもののようです。
これを響板とフレームの間へ差し挟むことで響板の響きをフレームへ伝達させ、ピアノをより一層鳴らす効果があるといいうものだとか。
これは果たして、ヴァイオリンの魂柱みたいなものなのか、あるいはスタインウェイのサウンドベル(これが正しく何なのか未だにわかっていないのですが)のような理論のものなのか…。それはともかく、もしもそれで一定の成果が得られるのなら一つの方法かもしれないと思ったわけです。
販売元は関東のピアノ工房のようでしたが、電話で問い合わせたところでは、効果は確かに「ある」とのこと。ただし、それは人によっても感じ方は違うでしょうし、ピアノによっても相性や効果の大小相違はあるのではと思いました。
価格は税込み32400円で、取り付けも出張のついでなど都合が合えば合計で4万円ぐらいとのことでした。
効果があって満足が得られればいいけれど、もしそれほどでもないと感じた時にキャンセルができるかどうかとなると、雰囲気的にそれはできないようでした。
きもち変わったかな?…というぐらいで、それ以上ではない場合、むしろこちらの耳が悪いから…みたいな展開になるのも心配ではあるし、たとえばインシュレーターでも安物と高級品では響きが違うといえば違うけれども、その違いは非常に微妙なものでしかないのがほとんどです。
ようするに最悪の場合、費用というか投資はいっさい無駄になることも厭わないという覚悟をしなくちゃいけないわけで、利用者や客観的な情報の不足もあって、ひとまず保留にしました。
ちなみに、器具を差し込むというあたりのフレームの穴から指を入れてみると、響板とフレームの隙間はせいぜい2cmあるかないかぐらいで、そうすると写真で見たそのパーツは、女性のイヤリングの片方ぐらいであることがわかります。
一概に、モノの値段は小さいから安い、大きいから高いというものでもないけれど、確認もできないまま購入するしかなく、その結果がはかばかしくない場合でも返品がきかないとなると、かなり迷ったのですが、ついに最後の決断がつきませんでした。
弦やハンマーのように、一度使ったら二度と売り物にならないような商品なら、キャンセルできないというのもわかるのですが…。