慣れの問題

『全国警察24時』みたいな番組ってそこそこ人気なのか、民放各局では似通ったものが結構あるようですね。
ニュースと朝ドラと音楽番組の録画以外はあまりテレビを見ないマロニエ君ですが、それでもいくつか視るものがないわけではなく、結構この警察モノは嫌いじゃありません。

街中を巡回するパトカーの隊員が、すれ違いざまに見た車のドライバーの一瞬の様子や動きから勘働きで目をつけ、後を追って職務質問が開始します。はじめは至極低姿勢だけれど、だんだんに相手の挙動や発言の問題点を見透かしていくのは、マロニエ君の野次馬根性を大いに満たしてくれます。
小さな話かけが、しだいに任意で持ち物検査や車内の捜索などに及び、あげくは違法な薬物の常習者だったりするところは、人間ウォッチとしても面白いので、この手の番組はわりに録画して視ることが少なくありません。

と、つい前置きが長くなりましたが、実は本題はこれとは関係なく、先日見たこの手の番組では、ある交通事故が車好きでもあるマロニエ君としてはとくに印象に残りました。

高速道路の料金所での映像で、ベンツの最高級車のひとつであるCLクラスというとても豪華な2ドアクーペが、料金所脇のポールにボディ左側を鋭く食い込ませ、ボディは大きく斜めを向いて、見るも無残なクラッシュ姿で止まっていました。

駆けつけた警察官には事故の状況がすぐには飲み込めない状況だったものの、運転者はというと無事で、その人物からの状況説明によって事故の経緯が判明したようでした。

それによると、なんとこの車は中古車ではあるものの購入後間もないそうで、これまでずっと右ハンドルの車に乗ってきたらしい50代の男性は、この車が初めての左ハンドルだったそうで、つまりは左ハンドルの運転に慣れていなかったために引き起こされた単独事故だったようです。

左ハンドルに慣れない人は、どうしてもはじめのうちは右寄りに走ってしまうものです。
とはいうものの、それは試乗などのごく初期の現象で、通常はしばらく注意しながら乗っていれば、時間とともに慣れてくるものですが、この事故は、慣れるより先にこの悲劇を招いたようでした。

つまり本来の位置よりも右に寄った状態で料金所に突入し、右タイアが縁石に乗り上げ、だからあわててハンドルを左に切ったのか、今度はその反動によって左側のポールに激突して止まったようでした。
その衝撃は相当なものだったようで、ナレーションは「車の修理代に加えて、破損した料金所の弁償も…」というようなことを言っていましたが、ひと目見て、車はとても修理のできるような生やさしい破損でないことは明らかでした。
フロントは完全にシャシー(車の骨格部分)までダメージが及んでいたし、リアタイヤもあらぬ方向へとグニャリと曲がってしまっていましたから、あれは間違いなく「全損」で、およそ修理代どころではないでしょう。

新車なら一千万の大台を遥かに越え、中古でも(そんなに古くはなかったので)何百万もする車が一瞬でオシャカになるのですから、慣れない左ハンドル故というには、あまりにもお気の毒というほかはない単独事故でした。

マロニエ君の車の仲間には、もとはといえば自分の趣味から奥さんにもずっと左ハンドルの車を運転させてしまったために、すっかり左の感覚が染み付いてしまい、いまさら右ハンドルへの転換が怖くて運転できないという状況に追い込まれた奥さんがいます。
ところが、以前とは違って、現在は輸入車も大半が右ハンドル化されており、一部の高級車とかスーパーカー的な車は別として、普通の実用車レベルでは左ハンドルはほとんどなくなりました。

こうなると自由な車選びができなくなり、左ハンドルであることを前提に車選びをするという主客転倒の状況となり、とうとう見つかったのがひと世代前のBMW3シリーズでした。
ところがこの夫婦、BMWがまったくお好みではないらしく、会う度に罵詈雑言、文句ばかり言いながら乗っています。

何から何までケナしまくりで、それは「乗ればわかる」というわけで、マロニエ君も何度か運転させてもらいましたが、言っていることは半分はまあわかりますが、とても良い部分もたくさんあって評価が辛過ぎるような気もしますが、いずれにしろハンドルの位置というのは、それほど人によっては大事だということで、最悪の場合、テレビで見たような大事故にもなるということがわかりました。

テレビのベンツは全損事故と言っても、所詮は物損事故でしたが、これで対向車と衝突でもして人身事故になる可能性もあることを考えるとやはり怖いです。

ちなみにマロニエ君はピアノは下手ですが、運転はとりあえず不自由なく楽にできるほうで、ハンドルも左右どちらでもまったくハンディなく乗れますが、それはひとえに慣れているからであって、つまり慣れないことはときに恐ろしい結果をもたらすものだと思いました。