背後のオーラ

つい先日、知人と食事に行った時のこと。

自然の素材を使ったヘルシーな食べ放題という店に行き、テーブルに案内されて一息つき、それから料理を適当に取って席に戻ってきた時のこと、知人がなにか言いたげですがこの時点ではまだ何も言いません。

なんだろうと思って尋ねると「後で…」みたいな表情をするので、深追いはせずそのままとりあえず食べてはじめました。
数分ほどした時、知人はチャンスと思ったらしく「今いないけど、うしろの女の人、すごいね」というので、なんだろうと思って恐る恐る振り返ると、そこに女性の姿はなく、どうやら料理を取りに行っている様子。

テーブルの上は皿(ここは大皿はあまりなく、小型の皿に料理ごとに取るスタイル)やカップ類があふれており、長椅子の隅にはハンドバッグが置かれていて、また戻ってくる状態のようです。

ほどなく、女性があれこれの料理を手に戻ってきましたが、マロニエ君はちょうど背中方向なので、いちいちの状況まではわかりません。ただ、こちらも席をたつ時などにそれとなく見ると、30代後半ぐらいの痩せ型の女性が、もくもくと一人で食べており、そこだけちょっと違う空気が漂っていることはすぐにわかりました。

その後も、知人はときどき小さな声で「また行ったよ」などと、その女性の様子が気になって仕方ないようです。たしかにその食べている量はちょっと普通では考えられないものだし、びっくりしたのは、デザートを食べたかと思うとまた普通の料理に戻ったりと、いわゆる世に言う「大食い」の人だろうと思われました。

ただそれだけなら、まあ世の中にはそんな人もいるのだろうという程度で笑って終わりなのですが、その女性から出ている負のオーラみたいなものが尋常ではなく、それがとても気になりました。
むろんひとりなので笑顔にならないぐらいはわかるとしても、その目つきは周囲で目立つほど暗くて厳しく、食事をしているというより、なんだか差し迫った深刻な行為に挑んでいるかのようでした。

その後も何度も立って行ったり戻ってきたりの繰り返しでしたが、しだいに他のテーブルとのちがいに気づきます。
それは、この店には何人もの女性スタッフがいて、そばを通るたびに空になった皿を「お下げしてよろしいでしょうか?」といいながらササッと引き取っていって、テーブルには食べているもの以外の皿類があまりたまらないようにしてくれるのですが、なぜか後ろの女性のテーブルには食べ終わった皿やカップがあふれていて、店のスタッフがあえてそのテーブルには近づかないようにしているらしいことがわかりました。

想像ですが、おそらくこの女性は店側からマークされている人物で、だから片付けに関しても他のテーブルとは対処が違うのだろうと思いました。
こうなるともう、そういうことの好きなマロニエ君としては気になって仕方がありません。

テーブルの上の食器はたまる一方で、皿を何枚も重ね、その上にカップ類を上積みするなど、かなり荒れた状態です。

その後しばらくすると、知人が「…戻ってこないよ」といい、みるとその女性はいませんが、バッグはしっかりあるので帰ったわけではないようです。しかし、なるほど今度は不自然なほど長時間戻ってこなくなりました。
「おかしいよね」などといいながら、こちらもデザートなどを取りに行きますが、その女性の姿はもうどこにもなく、まるで消えたかのようでした。

テーブルに戻ると知人が「あれみて」というので通路側をみると、柱に張り紙がしてあり、「お客様へ お手洗いに行かれる際にはスタッフにお声をおかけください」と書かれた紙がラミネート処理されて貼り付けてありました。
どういう意味かわかりませんでしたし、今もわかりませんが、もしかしたらその女性はトイレに行ったのではという気がしてきました。しかし、ついに我々が店を出るまでの最後の20分ぐらい、その女性が不在のままこちらのほうが店を出ることに。
なので、残念ながらその後どうなったのかはわからずじまいで中途半端な気分。

マロニエ君も知人も考えたことは同じで、トイレで…胃をカラにしてまた食べるのではないかと思いましたが、おそらくあの調子では、なんにしても相当に普通ではない行動をとっていると思われました。

テレビでは大食いタレントみたいなのが出てきて、ワイワイやりながら面白おかしく食べていますが、現実に目にする名も無き大食いさんは、近くにいるだけで怖いようなオーラに包まれていました。
もしかするとある種の病気なのかもしれず、だとしたらお気の毒でもありますが、少なくともお店からは嫌がられることは間違いありません。

やっぱり世の中にはいろんな人がいるんだなあと当たり前のことを痛感しました。