保守点検

今年は年明けからなにかと慌ただしいことが続いて、ピアノの調整もまったくのゼロというわけではなかったものの、ほぼ放置に近い状況が続いてずっと気がかりでもあり、ずるずると引きずる憂鬱の種でもありました。
そうこうするうちに梅雨になり、あれこれの都合もあってさらに延期が続き、このたびようやく本格的な調整の手を入ることができ、やっと大仕事が済んだというところです

今回は思うところあって、はじめての調律師さんにやっていただきました。
これまでお世話になった方々は、むろん言葉では書ききれないほど素晴らしい方ですが、今回は視点を変える意味もあり、この方にお願いしてみようということになりました。

おそらく九州では皆さんよくご存じの方と思われますが、あまりくどくど書くことで差し障りがあってもいけないので、これ以上は止めておきます。
というのも、この業界はきわめて狭い世界なので、どこでどう話が曲がって伝わらないとも限らないし、本来ならばたかだかマロニエ君のピアノ1台を誰がどうしたなどと吹けば飛ぶような些事なのですが、それでもしお世話になった方に要らぬ不快やご迷惑をかけてはいけないと、それだけは常に心がけているところです。
ただ、言い訳のようですが、自分のピアノはあくまでも自分の自由であるわけで、義理や柵に足を取られてその自由を失うことはしたくないという考えがあります。


さて、事前にタッチに関する事など主な内容を相談したところ、スタインウェイのコンサートチューナーということもあり、まずはホールでやっている保守点検にあたることをやってみては…ということで、このなんでもないような当たり前の提案に大いに納得。
というわけで、初回にふさわしく保守点検メニューをお願いすることになりました。

前日の夕方、下見を兼ねて来宅され、1時間ほどピアノ状態を簡単に確認された上で、翌日の本番となりました。

アクションを外し、鍵盤を外し、鍵盤の高さからなにからを規定値に揃えて、さらに各種の調整作業が丸一日続きました。
朝の10時からスタートして、終わったのは夜の8時半だったので、単純計算でも10時間半!
まるでマラソンのようだといいたいけれど、マラソンだって2時間強なので、その4倍というわけです。

午後に遅い昼食をとるため、40分ほどピアノの前を離れられた以外は、ほとんど休憩なしでの連続作業で、あらためてこの仕事の大変さと、技術者の方の忍耐強さに感服しました。
保守点検はほんらい2日で行う作業ですが、それを1日でやろうというわけで、さぞかし大変だったことでしょう。

神経を使う繊細な作業である一方、アクションの載った大きく重い鍵盤を何度も出したり入れたりの繰り返しなどは、かなりの重労働であることも痛感させられます。

終わった時には本当に「お疲れ様でした」という気分です。

これでも本来の項目のうちの9割ぐらいまでしかできなかったとのことで、残りは次回に持ち越しということになりそうですが、ともかくもタッチや音がきれいに整って一安心でした。
とくに音質はきわめて素直な美しさにあふれていて、弾きながら思わず陶然となってしまいます。

こうなると、自分一人がつまらぬ弾き方をしてだんだん乱れていくのがもったいなくて、きれいなものをできるだけ汚したくないといった守りの気分に陥ってしまうのが我ながらダメだなと思います。

マロニエ君は根が貧乏症なのか、車でも内外をバッチリ洗車してしまうと、その状態をすこしでも長く維持したくなり、しばらくはあまり乗らなくなってしまうこともあったりと、却って思い切って使えなくなるところがあります。
そんなに惜しがらずに、良い状態を大いに楽しまなくてはといつも反省するのですが、美しい状態というのに変な執着があって、これを乗り越えるのがなかなか難しいものです。