ギャップ

部屋の片付けをチャンスに、カーテンとクロスをやり変えることになり、業者の方に下見に来ていただいたときのこと。

クロスの張り替えは以前お世話になった業者さんもあるので、そこに依頼するつもりでしたが、いちおうネット調べてみると低価格な上にカーテンとクロスの両方をやってくれる店があり、これはこれで便利だろうなぁと思いました。
電話してみるととても感じ良く対応してくれ、とりあえず現場を見てもらうことに話が進みました。

かつて仕事を依頼したことのある業者さんはどちらかというと寡黙なタイプで、必要以上にあれこれと相談に乗ってくれるでもなく何冊かの見本を渡され、その中からこちらが選んだもので張り替えるという、若いけれど口サービスはないいかにも職人さんという感じでした。
きちんとした仕事をしてもらったという実績はあるものの、作業に至るやり取りは必要最小限で細かい相談とかアドバイスなどがないのも事実。
どことなく味気ないものを感じないでもなかったところへ、今回の業者さんは対照的に明るくて、必要とあらばなんでもご相談を!というお客側のニーズに出来るだけ応えますよというスタンスがあふれており、ついこっちに傾いてしまったのでした。

約束の日にやってきた方は、電話でしゃべったその人で、店の責任者らしい方でした。
前の業者さんはいつも当たり前のように作業着だったのが、こちらはウールのジャケットを羽織って中はセーターを着重ね、頭にはハンチング帽をかぶり、正直そのセンスはどうかと思ったけれど、決して悪い感じではありません。
愛嬌がよく、家に入るにも部屋に入るにも「それでは、おじゃまいたします!」「失礼いたします!」と礼儀正しく、いかにも慣れた手つきで寸法やら広さを確認した上で、ざっとした見積をだしてくれました。

続いてクロスやカーテンの見本を見せられましたが、その丁寧かつ優しげな口調は少し気になるぐらいで、ひとつひとつを噛んで含めるように説明してくれます。
「このお見積りは、いまごらんいただきました見本の生地で出させていただいた金額になります。」
「(見本を指で撫でながら)最近はこのあたりが質がよく好評なものですから、まずはこれをご案内させていただきました。」
「こちらは少し艶があり、明るい感じもいたしますし、遮光性も十分じゃないかと思います。」
「もっとお安いものをということでしたら、それももちろんございます。」
「逆に、もっとお高いものもございます。ハハハハハ」
…と徹底したやわらかな話し口調と物腰がとりわけ印象的でした。

「ただですねぇ、私が少しだけ今心配しておりますのは、3月にかけまして作業が大変混み合ってまいりますもんですから、なかなか予定を入れることが難しくなりますが、おおよそいつ頃をお考えでしょうか? あ、いや、もし当社にご依頼いただければ嬉しいなという前提のお話ですが…」

で、おおよその時期を伝えてみると、
「ああそうですか。はいはい、なるほど。…どうかなあ。」
「それでは、よろしかったら今ちょっとお電話をさせていただいて、現場の予定などを聞いてみましょうか?」といわれるので、そうしてもらうことに。

するとすぐに電話をかけ始めましたが、ちょっと離れて、こちらに背中を向けながら、
「うーーーい、うい、うい、うい」
「おつかれー。ん? そ、そ、そう。」
「あのさ、〇〇ごろって入る(仕事が)?」
「うん?おう、おう。△△のほうだったらいい?だったら嬉しい?ガーッハッハッハ、おっけー、おっけおっけ、わかったわかった。」
「オーイ、りょうかーい、うーい、ういうい」

~てな調子で、もちろん現場の人達とお客さん相手とでは話し方も違うでしょうけれど、やけにヤワな口調だったものが、まるで別人のような話し方になるあまりのギャップには思わず唖然、マロニエ君もこの性格なので笑いを噛み殺すのが大変でした。

電話が済むと、すぐまたさっきまでの物腰の柔らかい、丁寧すぎる口調へと切り替わるのは、ほとんどお笑い芸のようでそれを必死にポーカーフェースでやり過ごしました。