接客

日々時代の変化に揉まれていると、「昔は良かった」と思うことが多々ありますが、果たして本当にそうだろうか…と考えてしまう場合もあります。

先日、とある観光地の堀端にある有名うなぎ店に行きました。
江戸時代の創業という老舗で、場所も一等地、建物なども深い趣があるし入り口までの庭木や邸内のお坪も美しく整えられています。

ここで働く中居さんたちは、多くが中年以上の方ですが、その接客態度となると必ずしも老舗の名に応じたものとは思いませんでした。

お客様にきちんとした対応を…という緊張感はなく、ぞんざいに人数を聞きながら廊下を歩きだし、はいはいこちらといわんばかりの案内で、曲がりくねった木造の廊下を奥へ奥へと進みます。
通された座敷には、時流にそって畳の上に椅子とテーブルが並んでいますが、こちらが二人だったものだから、壁の隅の二人がけの小さな席を指しながら「こちらにどうぞ」とつっけんどんに言われました。

しかし、全部で7つのテーブルがある中で、二人用はこの一つだけ。
おまけに使用中のテーブルはわずか3つで、それらすべてが二人連れのお客さんでした。
混み合っているならむろん二人がけの席で当然と思うけれど、半分ほどしか埋まっていないのに、わざわざ狭い席に押し込もうというところにいささかムッとしてしまいました。

マロニエ君はこんなとき負けてはいません。
唯々諾々といいなりになってなるものかと「こっちでもいいですか?」と敢えていうと、「あ、そちらですか…いいですよ」としぶしぶ口調となり、我々は迷わず広いほうのテーブルに着席。
すると、何度も来るのが面倒なのか、着席するなり真横に立って伝票とボールペンを持って、すぐに注文を聞こうとする構えなので、エッ?と思い、ゆっくりメニューを広げて「ちょっと待ってください」というと、仕方がなかったらしく「はいどうぞ」といって立ち去って行きました。

ようやく注文が済むと、それから別の女性がお茶とおしぼりを持ってきますが、どの人も、態度にしまりがないというか、日常生活のだらんとした流れの延長でここでも働いているといったところでしょうか。
廊下を通るたびに出入り口の障子をパッと30cmほどあけて中の様子を見たかと思うと、すぐにパチンと閉めていなくなったりと、とにかく自由に動きたいように動いているという感じ。

さらに驚いたのは、なんだかいやに寒いと思ってたら、広い座敷の前後に2つあるエアコンはいずれも送風口が閉じたままで、年間を通じて最も寒いこの時期にもかかわらず暖房を入れていないことがわかりました。

お品書きには立派な値段が並ぶのに、変なところでケチるという印象がふつふつと湧き上がります。

ほどなくやってきた中居さんをつかまえて、「暖房は入っていないんですか?」ときくと、「あ、寒いですか?」というので「寒いです!」と少し大げさに体を揺すって見せました。
しばらくするとようやく少しだけ暖かくなり、見ると2つのうちの1つだけ、裏からの操作でスイッチが入れられたようでした。

料理を持ってくるときも、食器を下げる時も、廊下の障子はガーッと開けっ放しの状態。
そのたびに廊下(外に面している)の寒風がぴゅうぴゅう部屋に入ってきて、マロニエ君も何度かたまらず閉めに行ったほどです。

これが地域では名を馳せた老舗なんですから、所詮は田舎なんだと思いました。
今や都市部では100円ショップに行っても一定のきちんとした接客に慣らされている現代人ですが、田舎に行けばどんなに有名店でもこういうゆるさがあることがわかると同時に、昔はだいたいどこでもこんな感じだったことを思い出すと、やっぱりなんだかんだと文句を言いながらも、良くなった面も多いんだなあと考えさせられました。

とくに古いところは、良くも悪くも旧来の体質を引きずっているので、なかなか改まらないのでしょう。
多少はマニュアル的な接客でも、現代は丁寧な態度こそが求められるようになりました。