環境の変化?

大阪・神戸で一流ピアノ三昧に明け暮れ、帰宅した翌日のこと。
先日納品されたシュベスターを数日ぶりに弾いてみると、とても美音とは言いかねる混沌とした音にびっくりしました。

もちろん関西で弾いてきたピアノは最高ランクの一級品ばかりだったので、自分の耳も感覚も良い方に少し狂ってしまっていたかもしれませんが、それにしても「これはあまりにも…」と思いました。

納品前に軽くやったという調律は、時間が経つにつれますますバラバラに狂ってしまっているようで、ちょっと何曲か弾いてみましたが、早急にどうかしないと…という印象でした。
納品早々に、丸4日ほど放置していたわけですが、所詮はヤフオクで衝動買いしたピアノですから、何があっても不思議じゃありません。

「もしかしてピンズル?」というイヤな疑念が頭をかすめます。
古めのピアノにはチューニングピンがきちっと止まらなくなるピンズルという症状が出てしまうことがあり、納品から一週間も立たないうちにここまで狂ってしまったのは、そのせいではないかとまず思い、とりあえず技術者さんに電話してみることに。
納品調律は来週後半に約束はしているけれど、これではあんまりなので、もし可能ならもう少し早く来てもらって、少しでも早くきちんとした律調をやってもらいたい衝動に駆られました。

電話に出た技術者さんによると、果たしてピンズルは調律をやっているとだいたい感触でわかるのだそうですが、我がシュベスターには幸いまったくそういった兆候は見られなかったので心配には及ばないとのこと、それはそれで一安心ではありました。
でも、それなら、なんでこんなに狂ってしまったのかという疑問が残ります。

技術者さんが云われるには、ピアノは納品のための移動や環境の変化によって大幅に狂ってしまうことが珍しくないので、納品調律もすぐにはやらず、新しい環境に馴染むまで、できれば最低一週間は待ったほうが自分は良いと思いますと言われました。
考えてみれば3月上旬から5月という、日ごとに天候が激変する季節に、冷暖房のない厳しい環境でまるまる2ヶ月間を過ごしたわけで、それがいきなりエアコンのある室内へとにやってきたのですから、たしかに環境の変化というのはかなりのものがあるだろうと思いました。

中には納品時に運送屋と同道して、すぐに納品調律されるケースもありますが、それなら買った側も納品初日から調律の整った状態で弾けるというメリットはあるかもしれませんが、長い目で見れば時間を置いたほうが調律の安定という点では望ましいようです

というわけで、現在のところシュベスターの本来の良さは発揮されているとは言い難いけれど、弾いているうちにわずかに復調するような部分もないではなく、やはり優しげな音を出すピアノということは次第に思えるようになりました。
しかし、繰り返すようですが、前日まで関西で極上のヴィンテージスタインウェイのDのあれこれや、カワイのSK-7など、通常ではめったに触れる機会のないピアノにばかりに接してきたせいで、マロニエ君の音に関する尺度もずいぶん変化してしまったらしいことも、こうした印象に繋がってしまったかもしれません。

そもそも、価格的にも形状的にもお話にならないぐらい違うピアノですから、比較すること自体がナンセンスですが、それでもシュベスターの歌心と鷹揚な個性は、狂ってしまった音の中からときおり聴こえてくるものがあり、ピアノはこのブログを書いているパソコンのある机のすぐ真後ろにあるのですが、存在にイヤ味も圧迫感もなく、なんだかとってもかわいい奴だなあと思います。
というのも、ピアノというのは大きいだけに一歩間違えると、部屋の中での存在はとても無遠慮で暑苦しいものにもなることがあるというのはマロニエ君の長年の経験から得た印象です。
これがもし大手量産メーカーのピアノだったら、その危険度も高く、ちょっとしたことですが気持的にそういうふうに思えるだけでも、シュベスターは愛すべき存在だと思います。

シュベスターとはドイツ語で姉妹という意味だそうですが、そういう愛情とか優しさみたいなものをどこかに持ってるピアノで、楽器というのはコンサート用などは別として、家庭でポロポロ弾いて楽しむには、そんな優しい感じの要素もあるていどは必要な気がします。
というわけで、買い方はめちゃくちゃだったにもかかわらず、そこにあるだけで優しい気持ちになれるピアノだったということは、買ってよかったなぁと思うこの頃です。