ぶきみな音

つい先日の深夜のこと、そろそろ休もうかと自室に上がろうとエアコンと除湿機をOFFにしたところ、静寂の中からウーッという唸るような音が聞こえてきます。

はじめは冷蔵庫の作動音かな…と思って近づくと、音はまったく全然別のところから聞こえてきます。
それがどう耳を澄ましても、どこからの音か、なんの音なのか、見当もつきません。
壁のようでもあり、天井のようでもあり、あちこちに移動してみるけれど、どうもいまいちわからない。しかし、変な音がしていることは確かで、しかも普段聞くことのない音なので、やはり何なのか気にかかります。

真夜中のことでもあり、こんな正体不明の音が突如するなんて不安は募るばかり。
このまま放置して自室に戻ることもできず、さりとて室内はもう見るところもないし、思い切って懐中電灯を手に勝手口から外に出てみると、それまでウーッといっていた音は一気に音質が変わり、シャーーーッという尋常でない音が耳をついてきました。

「これは水の音」ということがすぐわかり、どうやら足元からのものらしく、屈んでみると地面の奥で水が勢い良く水が流れているのがわかりました。水道管からの水漏れであるらしいことは疑いようもありません!
こういうときって、あまりにも不意打ちをくらったようで、咄嗟に何をどうしていいのかもわからないものですね。
でも、非常にやっかいな、困ったことになったということだけは理解できました。

家の中に戻り、水道なら、やはり水道局だろうとホームページを見てみることに。
それによると、水漏れは陥没事故なども誘発する危険があるので、発見したら一刻も早く連絡をするようにと警告的に書かれています。
そういえば、いぜん福岡市では博多駅前の大陥没事故があって、その規模は全国ニュースになるほどのものだったし、水道局も注意喚起を強めているように思われました。
このとき深夜2時を過ぎていたけれど、フリーダイヤルで24時間受け付けになっており、ともかく電話をしてみることに。

電話に出た担当者は、こちらの住所と、水漏れ箇所は敷地の内側か外側か、というようなことを聞いてきます。
どうやらそれによって修理費用を誰が負担するかが変わってくるようで、この場合あきらかに敷地内だったので、そう伝えると、修理の作業をする水道局の指定業者を案内するので、メンテナンスセンターというところに電話するように言われました。

こちらも24時間対応となっていますが、なかなか電話に出ない。
諦めかけたころ、ようやく男性が出てきて、さっきと同様のことをきかれましたが、その次に言ったことが呆れました。
「この時間ですから、これからすぐに作業員が動くことはありませんので」
「は?」
「水道の元栓を閉める場所はわかりますか?」
「たぶん(あれかなと思って)わかるかもしれません」
「では、そこを開けて、右側にある水道メーターの中のパイロットを見てください。回っていたら水漏れです」
パイロットを見る?…シロウトにいきなりそんなこといわれてもわかりません!
そもそも、こんな夜中に真っ暗闇の外に出てそんなもの見なくったって、地面の中でジャージャーいってる音を聞けば水漏れにきまっているし、だから電話してんじゃん!と思ったけれど、そこは我慢しました。
「で、パイロットが回っていたら、左の止水栓を閉めてください。それで水は止まりますから、朝8時30分すぎにまた電話してください。」

朝8時30分を過ぎると、担当者が交代し、修理業者を紹介するということのようでした。
じゃあ、なんのための24時間対応?と思いましたが、道路や大規模なトラブルの場合は作業隊も動くのでしょうが、一般家屋の水漏れ程度なら一旦元を閉めさせて、対処は翌朝からでいいということなんだろうと思いました。

というわけで止水栓を閉めると音もしなくなり、とりあえずやれやれという感じでした。
とはいえ、最初に音に気づいてからこの電話が済むまでにもかなりの時間がかかったし、朝は朝で修理依頼の電話をしなくちゃいけないし、こうなると、なかなか寝付けず、朝まで寝たり起きたりの繰り返しでした。

時間通りに電話をすると、昨夜とは打って変わってハキハキした女性の声で対応され、それからしばらくして指定業者がやってきて修理開始。
やむを得ず、敷き詰められていた石造り風のタイルも一部を壊すことになり、地面には立派な落とし穴ができるほどの穴を掘るなど、汗みずくになって一日がかりで修理は行われ、夕方前に終わりました。しかも作業員の方はこの酷暑の炎天下の中、作業用の長袖シャツに長いズボン、長靴を履いて、軍手をして、頭には冬のような被りものを巻きつけて、黙々と作業をしてくださいました。
どんなジャンルでも、プロの職人というのはやはり大したものです。

数時間とはいえ、止水栓を閉めれば、家中のすべての給水がストップして不便なことといったらありません。
修理完了後、蛇口をひねればサーッと水が出る、そしてもうあのぶきみな音もしない、そんな当たり前のことにありがたさを痛感しました。