4人のスターピアニスト?

毎週日曜朝の音楽番組『題名のない音楽会』で、「4人のスターピアニストを知る休日」と題する放送回がありました。
番組が始まると、この日はホールではなくスタジオのセットのほうで、てっきりそこへ4人のピアニストを呼び集めるのかと思ったら、すべて過去の録画からの寄せ集めで、まずガッカリ。

4人の内訳はラン・ラン、ユンディ・リ、ファジル・サイ、辻井伸行という、なんでこの4人なのかも疑問だけれど、そこはテレビ(しかも民放)なので、さほどの意味もないだろうと思われ、それを深く考えることなどもちろんしません。
残念ながら全体としてあまり印象の良いものではなかったので、書くかどうか迷いましたが、せっかく見たのでそれぞれの感想など。

【ラン・ラン】
この人のみ、この番組のスタジオセットの中に置かれたスタインウェイで弾いていましたが、これもどうやら過去の録画のようでした。
ファリャの「火祭の踊り」を弾いている映像でしたが、マロニエ君はどうしてもこの人の演奏から音楽の香りを嗅ぎ取ることはできないし、ハイハイというだけでした。
本人はどう思っているのか知らないけれど、聴かせる演奏ではなく、完全に見せる演奏。
必要以上に腕を上げたり下げたり、大げさな表情であっちを見たりこっちを見たり、睨んだり笑ったり陶酔的な表情になったり、とにかく忙しいことです。
テンポも、やたら速いスピードで弾きまくる様は、まさにピアノを使った曲芸師のよう。
それでもなぜか世界中からオファーがあるのは、慢性的なクラシック不況の中にあってチケットが売れる人だからなのでしょうけど、だとするとなぜこの人はチケットが売れるのかが疑問。

ただ、ラン・ランの場合、この見せるパフォーマンスには憎めない明るさもあり、「ま、この人なら仕方ないよね」という気にさせられてしまうものがあって、彼だけはその市民権を得てしまった特別な人という感じがあるようです。
ピアノを離れたときの人懐っこい人柄などもそれを支えているのかも。

【ユンディ・リ】
ショパンのスケルツォ第2番。こちらはホールでの演奏。
ショパン・コンクールの覇者で、ラン・ランのような能天気ぶりも突き抜けた娯楽性もないから、こちらは知的で音楽重視の人のように見えるけど、果たしてどうなんでしょう。
こちらもかなり早いスピードで弾きまくり、自分の演奏技能を前面に打ち出した、詩情もまろやかさもないガラスのようなショパン。
音楽的なフォルムは、音大生的に整っているようにも見えますが、細部に対する目配りや情感は殆どなく、これみよがしな音列とフォルテと技術の勢いだけでこの派手な曲をより派手に演奏しているだけ。
ショパンの外観をまといながらも核心に少しも到達せず、細部に宿る聴かせどころはすべてが素通りという印象。

ラン・ランとユンディ・リは相当のライバルと思われるけれど、ピアノを弾くエンターティナーvs優勝の肩書を持ったイケメンピアニストぐらいの違いで、本質においてはどっちもどっちという印象でしょうか。武蔵と小次郎?

【ファジル・サイ】
なにかコンチェルトを弾いた後のアンコールと思われるステージで、お得意のモーツァルトの「トルコ行進曲」をジャズ風にいじった自作のアレンジ。
好き嫌いは別にして、この人がこういう事をするのは非常にサマになっているというか、ツボにはまった感じがあって、コンポーザーピアニストでもある彼の稀有な才能に触れた感じがあるのは確かです。
このサイによる「トルコ行進曲」は人気があって楽譜が出ているのか、何度か日本人ピアニストが弾くのを聴いた事があるけれど、ただのウケ狙いと、これが弾けますよという腕自慢としか思えないものばかりではっきり言ってウンザリするだけ。
ところが、本家本元はさすがというべきで、全身から湧き出る音とリズムには本物の躍動があり、余裕ある圧倒的な技巧に支えられて、聴くに値するものだったことに感心。
今回の4人中では、唯一もう少し他の曲も聴いてみたいと思わせるピアニストでした。

【辻井伸行】
こちらもコンチェルト演奏後のアンコールのようで、ベートーヴェンの「悲愴」の第2楽章。
この超有名曲にして、あまりに凡庸な演奏だったことに面食らいました。
この人はある程度の音数があって、速度もそこそこある曲をノリノリで弾くほうが向いているのか、こういうしっとり系で酔わせてほしい曲では彼の良さがまったく出てこないことが露呈してしまったようでした。
きちっとした思慮に裏付けられた丁寧な歌い込みや、心の綾に触れるような深いところを表現することはお得意でないのか、あまりにもただ弾いてるだけといった感じで、辻井さんのピアノの魅力や美しさを受け取ることはできず、肩透かしをくらったようでした。

~以上、あまり芳しい感想ではありませんでしたが、まあそれが正直な印象だったのでお許しください。