譜面立ての不思議

概ね気に入っているシュベスターではありますが、このピアノを弾いていて、ひとつだけひどく不自由に感じるところがあります。
それはアップライトピアノ全般に言えることなので、とくにシュベスター固有の問題点とは言えないのですが、譜面立てに関すること。

グランドピアノの場合は、水平に畳まれた譜面台を使用時に引き起こして(自分の好きな角度で)使いますが、アップライトの多くは鍵盤蓋の内側に細長い譜面立てが折り畳まれており、使用時はそれを手前に倒して、そこへ楽譜を載せるというスタイル。
(そうではない形状の譜面立てをもつアップライトもありますが、鍵盤蓋内側のものが圧倒的多数)
楽譜を置く部分はグランドの場合は水平であるのに対して、アップライトの場合は構造上の問題からか、かなりの角度(傾き)がついています。

それだけでも少し使いにくいのに、その細長い板の手前側の縁がわずかにせり上がるように作られており、これはおそらく楽譜が不用意に滑り落ちないための配慮のつもりだろうと一応は推察されるけれども、これが決定的にいけません。

というのも、弾きながらページをめくるときは、できるだけ曲が途切れないよう、手早くサッと一瞬でめくるものですが、その譜面台前縁のせり上がった部分に楽譜が干渉してひっかかり、その部分が強く擦れてシワになって、みるみるうちに楽譜の下の部分が傷んでしまうばかりか、最悪の場合は破れることもじゅうぶんありそうです。

グランドの譜面立てではそんな不都合は一切ないのに、なぜアップライトではこういう理解に苦しむ作りになっているのか、まるで合点がいきません。
その譜面台の板の角度がもし水平で、表面がツルツルなら、あるいは楽譜が滑り落ちる可能性があるというのもわかりますが、この手の譜面立ては「鍵盤蓋に対して直角に開くよう」になっています。
そこで問題なのは、アップライトピアノの標準的な鍵盤蓋は、グランドのように垂直に開くのではないこと。
直角よりも後ろへ寝かすように開きますから、その鍵盤蓋に直角に取り付けられた譜面立ては、横から見るとおよそ30度ぐらいの角度がついていて、滑り止めの前縁などなくても楽譜が落ちることはまず考えられません。

ではもし、そのせり上がった前縁がなければいいのかといえば、そうでもなく、鍵盤蓋がカーブして手前に伸びた部分に楽譜の背が当たるので、そのぶん角度がついて、どっちにしろ楽譜はめくれば譜面立てに干渉することは避けられません。

それにくわえて、わざわざ滑り止めの縁まである!
つまり「角度」と「滑り止めの縁」というふたつの理由から楽譜をサッとめくることができず、毎度毎度、楽譜の下の部分がその縁に引っかかっては皺になってしまうのが使いにくいし、それがいやならいちいち楽譜を持ち上げてページをめくる必要があります。
こういうことは、ピアノを弾くにあたってかなりのストレスにもなり、これは構造的な欠陥だと断じざるを得ないのです。
しかも、メーカーを問わずアップライトピアノの場合、多くがこのスタイルになっているのは、まったく不可解という以外にありません。

ピアノの製作者のほうには、楽譜を「めくりやすく」という実践的な考えや見直しがないのか、とにかく使う人のことをまったく考えていない構造だというのがマロニエ君の結論です。

試しにそこへ細長い板を置いてみましたが、前縁に干渉しない高さなっても、前述のように楽譜が鍵盤蓋のカーブに当っているために角度が生じて要るため、やはり楽譜は譜面立てそのものに干渉してしまいます。そこで、奥に鉛筆を一本置いてその上に板を乗せて角度をなだらかに変えてみると、これでようやく楽譜をスムーズに(つまりグランドと同じように)めくることができました。

ほんらい、ありのままで問題なく使えるのが当たり前であるはずなのに、このように二重の欠陥を有しながら、何十年も改善されることなく放置されていることにはただもう驚くばかりで、それは日本の大手のメーカーも同様なので、なぜこんな使いにくいスタイルがスタンダードになっているのか、まったく理解に苦しみます。

悪趣味で鬱陶しいカバーなどを何十種も作るより、こういう機能改善をするためのグッズでも販売してもらいたいものです。
むろん、メーカーが使いやすい譜面立てを考案・制作してくれることが一番ですが。